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若手向けのSF情報同人誌『SFG』を発行しています。webではSFに関する話題やイベント情報などを発信していきます。

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急速に変化する音楽シーンの立役者・楽曲派アイドルのいまとこれから【現役アイドル・プロデューサー・作家が語る(後編)】

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 「今アイドルファンたちを沸かせている楽曲派アイドルとは?」をテーマに、2019年7月の日本SF大会でトークショーが行われた。アイドルファンサイドからSF作家の柴田勝家さん、科学文化作家の宮本道人さんを、アイドル運営サイドからRAY楽曲プロデューサーのみきれちゃん、XOXO EXTREMEメンバーの一色萌(ひいろ・もえ)さんを迎え、現状のアイドルシーンの概観とこれからのアイドルの可能性を探る。

 

アイドルの「かわいい」を支えるもの

 

―一色さんは以前ブログで「かわいいからアイドルになるじゃなくて、アイドルだからかわいくなる」ということを書かれていましたが、そのことについて教えていただきたいです。


一色:少し前の価値観だと、アイドル=かわいい、かわいい=アイドルだったと思うんですよ。アイドルをやっているなら当たり前にかわいいし、かわいい子は当たり前にアイドルになるような。でも楽曲派アイドルが出てきた頃からだと思うのですが、美少女でなくてもアイドルになれる時代になってきている。それは、アイドルの価値観が変わったのも一つですが、お客さんが増えたことも要因としてあると思うんですよね。いろんな価値観のファンがいるから誰かの琴線に引っかかると思うし、どこにも引っかからないなら自分の長所を見つけてそこを伸ばして引っかかるようにする。それが、かわいいだけで戦っていた時代と比べるとやりやすくなったというか、自己プロデュースのやりようがアイドル側にも広がったのだと思います。


―ファンから見たアイドルというのはどうですか。


柴田:ファンからすると、ステージに立っているだけでかわいいですね。アイドルというのは容姿や歌声だけじゃなくて……うー、んーどう言えばいいんだ? まぁかわいいんですよ!(会場拍手)


宮本:最近、漫画がルーヴル美術館で第九の芸術と言って展示されていましたが、それで言うならアイドルは第十の芸術だと思っています。要するにこれまでなかったような、アイドルとファンが一体化している文化が総合芸術としても捉えられるんじゃないかと。


一色:アイドルがアートの分野と近くなってきているんでしょうかね。夢眠ねむさんの功績を考えると、でんぱ組.incさんが近づけたかなと私は思っています。


宮本:でんぱ組.incさん、良いですよね。コールや振り付けももちろんですし、新衣装や新人をどうお披露するかだとか、さらにSNSの戦略、アイドルはそれら全てで構成されている芸術だと思っています。それがかわいいに繋がっている。


―コールと言えば、柴田さんは振る側ですね。


柴田:楽曲派アイドルだとミックスはそこまで入れないかもしれないですけど、ワシが昔行っていた現場では、オタク達がずっとジャージャー言ってましたね。もはやアイドルじゃなくてオタクの顔見ながらジャージャー言ってました。あれなんなんでしょうね(笑)。


一色:たまに床見ながらやってる人もいますよね(笑)。


柴田:可愛すぎてアイドル見れないからね。感極まったら、禁止されているとこもありますけどリフトされて「お前が1番お前が1番」て言うこともある。あれはもうファン側の芸能ですよ。伝統芸能の1種。ミックスやコールも一子相伝のような感じで、ワシは民俗学やっていたんですけど、昔の人が唱えていたお経が数百年経って突然変わることがあるんですよ。それとよく似てますね。


宮本:柴田さんの『ゴーストケース 心霊科学捜査官』でもそういう話がありましたね。


柴田:『ゴーストケース』はワシの小説なんですけど、聞くと死ぬかもしれないCDを出したアイドルがいると噂になって、それを警察が追って行く話です。ワシが1番書きたかったのが、ファンの人が他界したって言った時に実は本当に他界していたってとこなんですよね。(会場笑)


一色:そういう言葉が普通の人に通じないんですよね(笑)。


―みきれちゃんさんから見て、コールは歓迎ですか?


みきれ:もちろんです。コールは打つものじゃなくて自然と体から沸き起こってくるものだとよく言われますよね。「オタクはライブで推しを前にすると偏差値が40下がる」とよく言われますがこれは本当に素晴らしいことだと思っていて、偏差値を40下げられる場なんて、大人だとほぼないんですよ。それができるアイドル現場って最高だなと、自分がオタクをしていた時から感じています。コールっていうのはその象徴だと思います。コールはアイドルというフォーマットの魅力だと思うので大歓迎ですね。


一色:ライブの一要素ですよね。でんぱ組.incさんのライブだと、コールの収録のためにコール用マイクが設置されているんですよ。私もBiSさんのライブではオタ芸を見に行っているところがありますね


―実際、オタ芸は見ていても楽しいですよね。


みきれ:少し話が逸れますが、オタクが狂える現場が減っている気はします。『TRASH-UP!!』という、ここを見ておけばやばい先端のアイドルを押さえられるというdotstokyoもお世話になっていたレーベルがあるんですが、一時期『TRASH-UP!!』界隈といったようなシーンが非常にぎわった時期があり、狂ったオタクがたくさんいて楽しい空気がありました。


一色実はキスエクも出してたんですよー。


みきれ:界隈が賑わっていた頃は、偏差値を40下げられる自由な空気が現場にありました。


一色:炊飯器とか掲げられてましたね。曲の途中にジャージャーって言って炊飯器を掲げたりして。炊飯器がパカって開いたら中でサイリウムが炊けてるんですよ(笑)。めちゃめちゃ面白かった。

 

現代的ツールは自然に、かつ効果的に使う

 

―広報はTwitterをメインで使われていますよね。これは戦略的に使われているんでしょうか。


みきれ:うーん。そこまで戦略的にやっているわけではなく、なんとなくの暗黙知になっていますね。メンバーに事細かく説明しなくても、SNSでこういうアクションをするとこうなるというのは理解しているんです。もちろん運営側もSNSでの戦略は当然考えていますが、メンバーもそれぞれ考えて動いてくれていると。


―以前、みきれちゃんさんがオフ会をオススメされていましたが、あれはなぜでしょうか。


みきれ:時期も大事だと思うんですが、ちょうどアイドルライブに行くようになって握手会に初めて参加したようなルーキーの頃に参加するオフ会の破壊力は凄いと思っているんです。もちろんオフ会に限らず、チェキ会でアイドルと話すこと自体人生の革命的な出来事だと思っています。ただ、少し話が逸れますが、対面でのコミュニケーションの強度の限界もそこには同時にあって、現場に来ていない人にその強度を届けることがすごく難しいという限界です。なので、オフラインの強度をいかにオンラインに飛ばせるか、というのは最近よく考えています。チェキ会で会話するというような経験を、SNS上でファンの人にどうやって届けるかかが重要なファクターですよね。


一色:dotstokyoさんは結構いろんな実験をされてましたよね。


みきれ:メンバーの通ったところがデータベース上に記録されていてそこを通過するとスマホに通知が来るアプリや、メンバーのリアルタイムの鼓動に連動してスマホが振動するアプリとか……。メンバーを要素に分解したものをオンラインで届けるサービスで、オフラインとオンラインとの相乗効果を狙っていたといえばそうかもしれません。


宮本:現場という、ここにしかないものという意味では、3776さんも特徴的ですよね。2人メンバーがいた時は、2つの場所で同時にライブをやってリンクさせるということをやっていました。


みきれ:リンクモードですね。


宮本:それですね。


みきれ:例えばこの会場で、向こうで片方がライブをやって、もう片方はこっちでライブをやって、違う曲が同時に進行するということが起こったりします。


宮本:3776さんは富士山というローカリティをうまく活かして色々実験的な試みをしているので、面白いなと思っています。


―技術をプロモーションするときにもアイドルが使われることが多くなってきていると思います。


宮本:ひとえにPerfumeさんの流れがすごく大きいと思いますが、例えばMaison book girlさんはAIで歌詞をサポートしたりとか、夢をデコードする神経科学で有名な研究者の先生とコラボして、MVの最後にその解説が挟まれていたりとか、アートとテクノロジーの間にアイドルを使う動きがあったりして面白いです。

 

アイドルの現場は時空が歪んでいる?

 

―一度現場に行ったらまたすぐ行きたくなるみたいな中毒性をファンは感じると思いますが、逆にアイドルさん側にもアイドルハイのようなものはあるんでしょうか。ファンとアイドルさんとの間で醸し出すものについてお伺いしたいですね。


柴田:『ゴーストケース』中で、ライブというのは宗教体験なんだという話が出てきます。「ライブは宗教的お祭りである、祝祭だ」というわけですね。ワシも民俗学を研究するなかでいろんなお祭りを見てきましたが、現場の空気はお祭りとすごくよく似ていて、見せる側とそれを楽しむ側という2つの構造があるんです。お神輿を担いでいるのがアイドルだとしたらそれを沿道から見ている人たちはファンで、どちらも楽しんでいる。今のアイドル現場は、宗教的な儀礼の側面を持っているとワシは思うのですけれども、演じる側の一色さんはどのような感覚なんでしょうか。


一色:お祭りみたいだなとは私もすごく思っています。あと、さっき中毒性という言葉も少し出たんですけど、オタクの人がライブ終了間際に「今きたばっかり!」と言うのは、まさに中毒性だと思うんですよ。もう十分見ただろっていう(笑)。でもあっという間に感じるんですよね。それはアイドルも同じで、他のアイドルさんでもステージから帰ってくると、「すぐ終わっちゃったね」って言う方が結構多いんですよ。ライブハウスの空間ではオタクとアイドルは時空が歪んでますね


柴田:日本人は、世界の中でも特にお祭り好きな民族なんですよね。基本は農耕民族なのでお米を収穫した時などの決まった時期にお祭りをやるわけです。まあ、農耕民族と狩猟民族の比較と言うのも今の時代には合わないかもしれませんが、お祭りは何かを発散するための形なんですね。みんな日常から解き放たれたい時があるじゃないですか。ライブに行くのは、お祭りに行くのと同じ感覚です。


一色:普段真面目に働いて生活しているから、みんなで集まってワイワイするのが楽しいのかもしれないですね。日本にはホームパーティーやクラブという文化はあまりないですし。


みきれ:僕もアイドルにはまった瞬間から毎日お祭りになりましたね。逆に欧米みたいに常に祭りがあるようなところではあまり流行らないんでしょうかね。


柴田:欧米は、ホームパーティーを毎週のようにやる文化ですよね。その点、日本は1年に1度の大きな祭りだと言うような空気です。まあ実際には1週間ぶりの現場なのかもしれないですけど。定期的にパーティーをやろうというのではなく、あの日に合わせて行くぞという気持ちなんでしょう。


宮本:ライブは、曲の中に色んなものが詰まっていますよね。作詞家の阿久悠さんが「感動する話は長い短いではない。3分の歌も2時間の映画も感動の密度は同じである」と仰っていたそうですが、アイドルライブにも色んな要素が凝縮されてるんですよね。時間が短く感じるのは、そこに繋がるかもしれません。

 

楽曲派アイドルの未来

 

―それでは最後に、楽曲派アイドルの可能性についてお願いします。


みきれ:色々と考えていますが、アンダーグラウンドに突き抜ける方向は少しずつ落ち着いていく気がしています。その要素を持っているグループも当然出てくるとは思うんですが、アンダーグラウンド感を薄め、もう少しポップに寄せて、突き抜けすぎないバランスに揺り戻しが来るんじゃないかと感じています。


―大衆寄りということでしょうか。


みきれ:というよりも、ポップスとしての完成度が高い方向に寄っていく気がします。


―それは良い傾向でしょうか。


みきれ:どうでしょうか。カルチャーの多様性を担保すると言う意味では、アンダーグラウンドに突き抜けたグループがたくさんある方が、いろんなものの母体になると思っています。一方で、「売れる」ことを考えた場合はポップさに寄っていくのも大事で。僕はアンダーグラウンドなことがめちゃくちゃ好きだし、RAYはマイナージャンルとの融合を掲げていて、当然マイナージャンルをゴリゴリとやっていくつもりですが、その中にはポップさというか、そこまでアンダーグラウンドなものを知らない人でも受け入れられるようなものにするのも大事だとは思っています。


―ところでRAYのグループ名の由来を教えていただいてもいいですか。


みきれ:令和とは全く関係なくて、光とか光源を意味しています。光って反射していろんな角度に曲がっていくじゃないですか。違う要素に当たったときに色んな方向に曲がる。マイナージャンルとの融合とか、とにかくいろんなことにチャレンジしていきたいというような、そんなイメージです。


一色:キスエクはアイドルに軸を置きつつ、プログレの方面にも踏み込んでいくグループで、結構プログレの比重は高いと思うんですけど、まあプログレは今はマイナージャンルですよね。多くの人に受け入れられる方向に変わっていくことも、そろそろアイドル全体が考えている時期かなと思っています。

そうなるとプログレ推しは苦戦するんじゃないかと言う気もしているんですけど、それをコンセプトでやっているグループなので負けずにやっていきたいと思っています。アイドルでも楽曲が良いのはもう当然になっているので、曲に全然力を入れていないグループは、いくら可愛くてもそんなに売れないんじゃないかなと思います。楽曲派アイドルは増える一方だと思いますが、その中でキスエクは頑張って戦って行きます。と言う感じですね。


みきれ:少しお聞きしたいんですが、プログレシーンとどれくらい……なんていうか……癒着できました?(笑)


一色:癒着できたかあ(笑)。ファンの方々からは、新しいプログレの音楽として「お、新しいプログレが来たぞ」みたいな感じで好意的に受け取ってくださる方もいれば、ちょっと受け入れられないなと言う人もいます。

でも、ディスクユニオンのプログレッシヴ・ロック館さんのご協力があったりとか、MAGMAさんというフランスのプログレの曲を公認でカバーさせていただいた時に、MAGMAさんがオフィシャルのFacebookで宣伝をしてくださったりとか、あとキング・クリムゾンのエイドリアン・ブリューさんが私たちの、少しオマージュしている部分がある曲を聞いて、いいねってコメントを返してくださったりとか。あと最近のシングルの「Nucleus」はANEKDOTENさんの曲のカバーなんですけど、演奏を日本のプログレシーンで活躍されている金属恵比須さんに演奏していただいたりと、結構癒着できていますね(笑)。公認でやらせてもらえていることが結構大きいです。


みきれ:おそらく単に曲の一要素としてプログレを取り入れただけではシーンに癒着できないんですよね。グループの総体としてシーンをハックすることが重要だと思います。このシーンにこういう角度でアプローチすることで溶け込んでいく、という戦略が重要になってくるのではと思います。


一色:プログレッシブロックという、今までアイドルが開拓してこなかったジャンルで、プログレシーンがキスエクをすんなり受け入れてくれる土壌があるか少し不安だったところがありました。なのでそのシーンを踏みにじらないように、協力をしながら仲良くやれるようにと思っています。プログレアイドル始めますと言った時に「プログレ苦労するよ」とはよく言われたんですよ。でも意外と苦労してないし、皆さん優しいよなぁと思っています。


みきれ:そのシーンの人が協力的というのは大きいですよね。


―今聞いたプログレシーンもSFと完全に同じですね。柴田さんと宮本さんにはファン側として期待するものを最後にお願いします。


柴田みんな! 会おうぜ現場で、待ってるぜ。会ったらよろしく! アイドルのイベントって、ライブで歌を披露するだけじゃなくて、今日みたいなトークセッションのような形だとか、これから色んな形で出てくるんだなとは思っています。音楽シーンだけじゃなくて、アイドルがメディアになって日常生活のいろんなシーンでアイドルと関わっていくことが出来るような状況になったらいいなと思いますね。素晴らしい世界だ。じゃあみんな、現場で会おうぜ。


宮本:シーンがSFと似てるという今のコメントを聞いて思ったのですが、SFって主に「サイエンスフィクション」と言われているジャンルですけど、「スペキュレイティブフィクション」という、サイエンスだけではなく別の世界の在り方を思索するような呼び方が話題になったときがありました。

同じように、アイドル業界でも、王道のアイドルに対してスペキュレイティブなものとして楽曲派アイドルが出てきたなという見方もできるかもしれません。楽曲派アイドルとは、そもそもアイドルとは何なんだろうと言うようなことを考えさせる、境界を揺るがす存在なんじゃないでしょうか。スペキュレイティブアイドル、思索させる偶像とでも呼べる何かかもしれません。

そして、アイドルとは何だろうという問いは、ひいては人間とは何か、ファンとは何か、僕らという存在は何か、という問いを突きつけてくるものです。今後、楽曲派アイドルシーンが広がっていったとき、何か哲学みたいなものまで突き進んでいったら面白いんじゃないかなと思っていたりします。ありがとうございました。

 

(このイベントは、日本SF大会の企画として行われました)

 

 第二弾開催決定

eplus.jp

 

夏の日本SF大会でご好評いただいたトーク企画第二弾! 前回テーマ「楽曲派アイドルの今まで」に引き続き、今回のテーマは「楽曲派アイドルの現在と未来」。楽曲派アイドルシーンの今とこれからの可能性を探るトークセッションです。

 

出演

一色萌(XOXO EXTREMEメンバー)
みきれちゃん(RAY運営・楽曲プロデューサー)
柴田勝家(作家)
宮本道人(科学文化作家)

 

トーク終了後に抽選景品サイン会、一色萌さんチェキ撮影会があります。
抽選景品サイン会用の抽選券は、2オーダー以上ご注文いただいた方、注文するごとに1枚をお渡しします。

 

場所

ネイキッドロフト

住所:東京都新宿区百人町1丁目5−1 百人町ビル

 

時間・料金

OPEN 18:30 / START 19:30

前売¥1500 / 当日¥2000 (要1オーダー¥500以上)