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【恐竜SFレビュー#23】江の島にある恐竜園『ディノサン』

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恐竜SF紹介コラムの第23号は木下いたるの『ディノサン』を紹介する。
恐竜が絶滅しなかった世界を舞台に恐竜を飼育する恐竜園に赴任した新米飼育員、須磨すずめの奮闘を描いたSF漫画である。

 

「私ね 大きくなったら 恐竜の飼育員になる!」By須磨すずめ

恐竜の生き残りが発見されて以降、恐竜は数を増やしていったが、ある”事故”が原因で恐竜ブームは下火になっていた。


恐竜を飼育する施設、恐竜園。その中でも江の島にある江の島ディノランドに新人飼育員の須磨すずめが初出勤するところから物語は始まる。恐竜をこよなく愛する須磨すずめは恐竜の魅力を伝える理想に燃えるも、先輩社員の海堂は冷ややかな態度で接する。

 

すずめは恐竜園の飼育員として熱中症で苦しむトロオドンのために奔走したり、片角のトリケラトプスの売却を阻止しようとしたり、痛風のディロフォサウルスの治療に立ち会ったりして飼育員としての経験を積んでいくが、かつての”事故”では彼女の父親も犠牲になっていた……。

 

本作は月刊コミックバンチで2021年5月号より連載されているコミック作品である。1946年に未開の島で恐竜の生き残りが発見され、繁殖や遺伝子操作で数を増やしていった恐竜が現代に存在している世界が舞台。生きた恐竜は一時は人々を魅了したものの、事故が原因でブームは下火に。すずめの職場である江の島ディノランドも閑古鳥が鳴き、予算が削減されている状態である。恐竜が現代で復活した作品は多々あるが、恐竜に対する熱狂が終わった後の世界を舞台としているのが特徴的である。

 

恐竜が復活する作品は恐竜が人を襲うパニック路線の作品も多いなか、本作に登場する恐竜園に飼育されている恐竜は動物園の動物同様に血の通った生物として描かれており、ギガノトサウルスにも感情があると伺わせる描写もある。


一方で花形の恐竜だったトリケラトプスがストレスで片方の角を失い、汚名を着せられた末に地方の恐竜園をたらい回しにされた過去があり、遺伝子操作で誕生した恐竜は寿命を全うできないという、人間のエゴも描かれている。

 

本作品ではギガノトサウルス、トロオドン、トリケラトプス、ディロフォサウルなどの恐竜が登場しており、各恐竜の生態も詳しく描写されている。監修を担当している藤原慎一によるコラムも各エピソード間に挿入されており、一層楽しめる内容となっている。江の島ディノランドは肉食恐竜6種、植物食恐竜13種、翼竜4種、首長竜1種と計24種が飼育されている設定ということで、今後も様々な恐竜の登場を期待したい。

 

現在は単行本が2巻刊行されており、2巻では”事故”の真相も描かれている、恐竜SFの中でもいま注目の作品である。コミックバンチwebで第2話まで試し読みできるため、興味のある方はぜひ読んでほしい。


理想と現実にもがきながらも前へ進もうとするすずめの成長を通して、恐竜園の意義、人間と恐竜の関係を問う内容でもある。ちなみに、著者の木下いたるは江戸時代に恐竜が出現する『ギガントを撃て』でデビューし、本作が二作目である。

 

 

作品情報

 

書名:ディノサン
著者:木下いたる、監修:藤原慎一
出版社:新潮社