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楽曲派アイドルは音楽シーンをいかに塗り替えていったのか?【現役アイドル・プロデューサー・作家が語る(前編)】

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 「今アイドルファンたちを沸かせている楽曲派アイドルとは?」をテーマに、2019年7月の日本SF大会でトークショーが行われた。アイドルファンサイドからSF作家の柴田勝家さん、科学文化作家の宮本道人さんを、アイドル運営サイドからRAY楽曲プロデューサーのみきれちゃん、XOXO EXTREMEメンバーの一色萌(ひいろ・もえ)さんを迎え、現状のアイドルシーンの概観とこれからのアイドルの可能性を探る。

 

最近流行りの楽曲派アイドルって何だ?

 

―今回はSF大会の企画ということで、まずそもそも楽曲派アイドルとは何なのかということについて、宮本さんからお願いします。


宮本道人(以下:宮本):楽曲派アイドルの「楽曲派」は、昔は主に「楽曲派オタ」というオタクの1つの属性として、楽曲を追っていて在宅で音楽だけ聴いているようなオタクを指す言葉であったと思うんですね。そこから転じて、アイドルの中で曲が良いアイドルを楽曲派と呼ぶようになったという流れがあると思います。ちゃんと調べたわけではないのでその点はご了承下さい。

「楽曲派アイドル」と呼ぶのはむしろ「楽曲以外の部分が良くないと言っているように聞こえる」から微妙という意見も見られますが、最近は「楽曲派」といったときには基本的に「音楽へのこだわりが見える」くらいの広い意味で使われているというイメージがあります。関ジャムというテレビ番組で以前ヒャダインさんが言われていたように、王道のアイドルに対してカウンターカルチャー的に別の見方を提示するアイドルが出てきたよ、という意見もありますね。


―一色さんとみきれちゃんさんのお二人は、楽曲派アイドルを意識し始めた時期はいつ頃でしょうか。


一色萌(以下:一色):私がアイドルを追いかけるようになったのが2012年から2013年くらいなんですけど、その頃にはもうその言葉はあったと思います。


みきれちゃん(以下:みきれ):僕が、楽曲が良いアイドルを意識した一番最初は、おそらくNARASAKIさんがももクロ(ももいろクローバーZ)に楽曲を提供したあたりだったと思います。「ピンキージョーンズ」という曲を作ったのが2010年で、僕がアイドルにはまり始めたのは大体この頃です。

BiSさんと言うライブアイドルの歴史に残るスーパーアイドルがいるんですが、このBiSさんが結成されたのがちょうど2010年で、楽曲派という単語がいわゆるライブアイドルのレイヤーで言葉として意味を持ち始めたのはおそらくBiSさんのフォロワーグループが誕生したあたりじゃないかなと思います。

2012年から13年あたりにフォロワーのグループが登場して、そのあたりから言葉が機能しはじめたと言うような感覚があります。正史的な話ではなく、あくまで個人的な感覚レベルの話です。


宮本:Perfumeさん、BABYMETALさん、ももクロさんとか、小さいハコ(ライブハウス)から始まって、世界で評価されるようなグループが次々出てきて、「アイドルと別の音楽ジャンルを掛け合わせると新しいものになる」というのが世界を視野に入れてできる可能性が見えてきてから、いろんな方が参入していったイメージがあります。


―柴田さんは楽曲派以前のアイドルはご存知ですか?

 

柴田勝家(以下:柴田):ワシ自身、アイドル現場によく行っていたのが大体2015年ごろだったんですね。その時ワシは、まだ楽曲派アイドルと呼ばれるアイドルを追ってはいなかったです。みんなが昔ながらのアイドルと言って想像するようなアイドルを追っていました。その後一度離れて、今こういう楽曲派のアイドルシーンを見るにつき、改めてアイドルっていいなぁと思っているところがありますね。

 

アイドルで表現したいもの

 

―XOXO EXTREME(以下:キスエク)さんを始めた時は、やはり楽曲派アイドルを意識していましたか。


一色:そうですね。さっき、みきれちゃんさんのお話を聞いてすごく納得したんですが、私がアイドルにはまったきっかけがBiSさんなんですよ。実は今日もBiSさんのすごく古いTシャツを着てるんですけど(笑)。BiSさんとかでんぱ組.incさんとかアップアップガールズ(仮)さんとか、その頃すごく活躍していた方を見て、憧れてアイドルをやりたいなと思っていたので、最初からいわゆる王道アイドルよりは楽曲が変わっているところがいいなと思っていました。そういうところを狙い撃ちしてオーディションを受けたんですよね。


―それでプログレに。

 

一色:そうですね。それでプログレになりました(笑)。

 

―プログレ自体はご存知だったんですか。


一色:いえ、最初は知らなくて、キスエクに入ってから曲のジャンルを勉強し始めた感じです。プログレというと「変わってるね」と言われるんですけど、それまでアイドルさんのいろんな曲を聴き倒していたので、私自身はプログレだからとっつきにくいとか、変わっているという抵抗感は全くない状態で入れました。


―いろんなジャンルを聞いていたんですね。


一色:そうですね。いろんなジャンルがアイドルでやり尽くされていた感じがあって、プログレはちょっと新しかったですけど。


―RAYさんは、その前身のdotstokyoをやっていらっしゃる時も楽曲派アイドルを意識されていたんですか。


みきれ:そうですね。僕はもともと、ももクロから知って地下アイドルに入っていったようなオタクで

僕の楽曲派アイドル個人史みたいなのを簡単に説明しますと、さっきお話しした2010年というのがターニングポイントで、NARASAKIさんがももクロに楽曲提供をしたのとBiSさんの結成、それからさくら学院にCymbalsの沖井礼二さんが楽曲を提供したのとか、BABYMETALが誕生したのもこの時期です。で、2012年に私立恵比寿中学さんとDEERHOOFの対バンがあります。BiS階段もこの年です。2013年には強烈なインパクトがあったNEU!というジャーマンプログレのバンドをオマージュしたような楽曲として、ゆるめるモ!さんの「SWEET ESCAPE」が出てくると。僕はこの辺を体験していることで、僕のアイドル史=楽曲派アイドル史みたいになっていて、そういう人間が運営になるという事は当然、楽曲派アイドルを作るという流れがあるわけです。

その経験の上で、RAYの前にはdotstokyoと言うグループを運営していたんですけど、dotstokyoではシューゲイザーをやっていました。シューゲイザーを中心にしたのは、それまでの楽曲派アイドルの中ではシューゲイザーという音楽ジャンルがぽっかり空いていたからです。かつ、シューゲイザーは絶対にアイドルとハマると言う確信があったので、dotstokyoからRAYという僕のディレクションにつながりました。


―バンドではなく、アイドルがシューゲイザーをやる効果というのは何ですか。


みきれ:それが難しいんですよね。たまに言われるんですよ。「こんなサウンドするならバンドでいいじゃん」みたいな。ただ、僕はもともとバンドマンだったんですが、バンドのお客さんの腕組んで「いいじゃん」みたいなそういう雰囲気、すごく嫌いだった(笑)。それでいざアイドルのライブに行くと、みんなめっちゃ楽しそうなんですよ。アイドル現場の主体的に楽しみたいって空気ですごく好きなんですよね。バンドの少し斜に構えたような空気感が嫌で辞めたんで、なぜシューゲイザーをバンドでやらないのかと言われても、すでにバンドではやらないという結論に到達していたからという感じですね。


―シューゲイザーでありつつ、アイドルポップとしても機能しているところが衝撃的だったんですけど、そこは留意して作られているんですか?


みきれ:めちゃくちゃ意識してます。でも、たまに「シューゲイザーならウィスパーボイスで歌え」みたいなことは言われます。ただ僕はdotstokyoを始めた時からウィスパーボイスはやらないと決めていました。だってウィスパーボイスでシューゲイザーをするすごく内向きなアイドルグループなんて毎週見たいか? って言われると僕は見たくないので(笑)。それよりも、しっかり歌ってメンバーを通して熱量を伝えるような、そういう曲にする必要があると思ったんです。なので、dotstokyoの時も RAYの時も、サウンド自体はシューゲイザーサウンドなんだけど歌は底抜けにポップ、みたいなのは意識していますね。


―キスエクさんでは、コンセプトを意識して歌うように指示されているんですか。


一色:そういう指示を受けているというわけではないですね、みんな素直に歌っていると思います。ファンの方からは「本格的なサウンドにアイドルなボーカルが乗るのが面白いね」と言うことをよく言っていただけます。アイドル性を前面に押し出して歌ったらアイドルソングになるような声の子がプログレを歌っているグループなんですよ、キスエクは。


―自然に歌う、ということですか?


一色:おそらくそういう素質の子を集めているんじゃないかなと思います。欲しい声の子とか個性のある子だとか。だから逆にプログレに寄せ過ぎると違う、みたいなところもあるんじゃないですかね。プログレおじさんたちは、もっともっと本格的にって言ってくださるんですけど。


みきれ:シューゲイザーおじさんと一緒ですね(笑)。


一色:でもアイドルオタクの皆さんは結構成長を楽しむというか、アイドルのあどけなさを見守るところに楽しみを見出している方も多いので、極めすぎるのも出来なさすぎるのも違う、難しいところを攻めているなぁとは思うんです。ちょうど良いところをなんとか探ってやっていきたいですね。


―上手くなりすぎないというのも難しいところですね。


一色:たぶん、上手くなりすぎたらつまんないんでしょ?(会場笑)


みきれ:ピッチが取れるとか声量があるとかは、当然どのアイドルも目指しているところですが、それと心に響くかは全く別のところにあるんですね。


一色:多分BiSさんとかでんぱ組.incさんもそうだと思うんですけど、アイドルって「エモ」が要素として大事だと思っていて、気持ちを込めすぎると歌声がブレたりするんですよね。技術不足なのかもしれないですけど、そこを楽しんでいる部分も絶対ありますよね。私も元々オタクなのでその楽しみ方は分かります。


―柴田さんはこの間キスエクさんのワンマンに行って、一色さんのボーカルに感動したって言われていましたね。


柴田:ワシは比較的ステージの近くで見てて、「なんやめっちゃうまい人いるやん? 誰じゃい?」って思っていたら「ああー、これが一色さんか」ってなったのが一昨日のワシでした。


一色:ありがとうございます(笑)。


柴田:今おっしゃられたように、歌の上手さだけじゃなくて感情表現という部分もアイドルとして必要な要素ですよね。アイドルにしか表現できないものがあるなと思っています。

 

振り付けが音楽をドライブさせる

 

 ―アイドルの要素として楽曲以外にあるのが振り付けで、後で音楽だけを聞いても脳内で同時に振り付けが再生されるというのは、音楽の表現が歌だけではなくリンクされているということですよね。そのあたりの重要性についてはいかがですか。


みきれ:かなり重要だと思います。純粋な音楽表現みたいなものがあったとして、それにかわいいとか振り付けとか、いろんな記号性がへばりついて音楽がドライブしていくところがアイドルの大きな力だと僕は思っています。ただ、一方でバンドがやるような「純粋な音楽表現」こそが本当の音楽だと言う人にとっては、邪道に写ることもある。アイドルのコンテンツを一般化するための悩みどころですね。アイドルはバンドとは全くフォーマットが違うので、音楽だけで勝負するのではなくて、色んなもので勝負しています。こうしたアイドル/バンド、アイドル/アーティストという二元論的な見方や優劣決定は薄れてきたとはいえいまだ根強くあって悩ましいですね。永遠の課題だと思います。


―踊る側としては、本当に大変そうですね。


一色:本当に大変ですよー。


―フィロソフィーのダンスさんは、ステージの大きさによってステップ数やピッチを変えていると、ドキュメンタリーで語られていました。


一色:なかなかそこまでは難しいですね。ただ不思議なことですが、踊りながら歌を歌うのって難しく見えますよね。多分、皆さんも今やってみてと言われたら「ええー」ってなると思いますけど、実際アイドルになると不思議とできちゃうんですよ。

 

―不思議ですね。

 

一色:キスエクに研修生で浅水るりちゃんという、3月にお披露目したばかりの子がいるんですけど、彼女もやっぱり同じことを言っていました。体力がつくのか、配分を覚えるのか、理由は分からないんですが、何故かできるようになります。最初は振り付けと歌とでいっぱいになる時期はありますけど、どちらも見て楽しめるクオリティーにすることは不可能では無いので、それを目指してやっていきたいなと思っていますね。

 

(後半に続く)

 

 第二弾開催決定

eplus.jp

 

夏の日本SF大会でご好評いただいたトーク企画第二弾! 前回テーマ「楽曲派アイドルの今まで」に引き続き、今回のテーマは「楽曲派アイドルの現在と未来」。楽曲派アイドルシーンの今とこれからの可能性を探るトークセッションです。

 

出演

一色萌(XOXO EXTREMEメンバー)
みきれちゃん(RAY運営・楽曲プロデューサー)
柴田勝家(作家)
宮本道人(科学文化作家)

 

トーク終了後に抽選景品サイン会、一色萌さんチェキ撮影会があります。
抽選景品サイン会用の抽選券は、2オーダー以上ご注文いただいた方、注文するごとに1枚をお渡しします。

 

場所

ネイキッドロフト

住所:東京都新宿区百人町1丁目5−1 百人町ビル

 

時間・料金

OPEN 18:30 / START 19:30

前売¥1500 / 当日¥2000 (要1オーダー¥500以上)