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【恐竜SFレビュー#24】恐竜in江戸時代『ギガントを撃て』

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恐竜SF紹介コラムの第24号は木下いたるの『ギガント』を撃てを紹介する。
恐竜が絶滅せず生き延びていた架空の江戸時代を舞台に恐竜に立ち向かう若者の姿を描いた伝奇SFサバイバル漫画である。

 

「恐竜(トゲ)は絶滅したのだ」By官兵衛

一八四四年(天保十五年)、秋田・久保藩。
クマ狩りをしているマタギを、小型肉章恐竜が襲撃する。

 

柵に覆われた町で、少年銀二と少女ナマリは御用聞きとして働いていた。上司である同心、官兵衛は町を覆っていた柵を解体することを決め、町の住人を集める。しかし、そこへ冒頭で襲撃を受けたマタギの生き残りが、同心にトゲ(恐竜)が出現したことを伝えた。


この世界では「トゲ」と呼ばれる恐竜が生き残っていた。しかし、赤穂浪士の討ち入りが起きた元禄時代以降、その存在は確認されていなかった。そのため、トゲの侵入を防ぐために建てられた柵壁も解体することになっていた。

 

マタギは官兵衛に柵壁の警備を申し出て、銀二とナマリもマタギと共に警備にあたる。しかしその晩、マタギを襲ったトゲが町へ侵入し町の住人を次々と襲っていく。銀二とナマリの機転でトゲを追い詰めるも、より大型のトゲ(獣脚類)が柵壁を壊して小型のトゲを一瞬で屠り、町を瞬く間に壊滅させて去っていく。

 

官兵衛にトゲの存在を秘密にしていたと濡れ衣を着せられ町に戻る術を失った銀二とナマリはマタギと共にトゲを倒すと決意するも、マタギはトゲの賞金欲しさに2人を裏切り、銀二をトゲをおびき寄せるために利用しようとする。ナマリの機転で銀二は窮地を脱し、マタギを喰い殺したトゲを協力して倒すことに成功。そして武者姿の老人と彼と共に行動する青年・甲斐と遭遇する。彼らは恐竜を狩ってきた狩人、守人の末裔だった。

 

本作は2018年6月~2019年6月までウェブコミックサイト「コミックDAYS」で連載されていたコミックである。舞台となる世界では恐竜が絶滅せず生き延びていたという設定。一時的に姿を消すも、江戸時代後期の天保に出現し人々に襲い始める。その災厄に抗おうとトゲに戦いを挑む若者たちの姿が描かれた作品である。


江戸時代が舞台であるため、恐竜を倒すための武器も銃や刀と現代の文明利器と比べると劣ったものではあるが、人間の持つ最大の武器、知恵と勇気を駆使してトゲと戦う熱い展開となっている。恐竜との戦いだけでなく、狩った後の恐竜の利用方法や恐竜の肉を鹿、猪と同様に食べる描写もあり、銀二達が恐竜肉を堪能するシーンは必見である。

 

本作は全3巻で完結しており、1巻では獣脚類のトゲ、2巻では角竜類のトゲとこのトゲを守り神として崇める村の一団、3巻では別種の獣脚類のトゲとの戦いが描かれている。序盤は無鉄砲な銀二と銃マニアのナマリのバディもので、話が進むに連れて守人の生き残りである甲斐や、トゲを崇める村で異を唱えて村八分となった屈強な青年・亞虎が仲間に加わってくる。残念ながらトゲとの決着は描かれることなく最終回を迎えるも、戦い続ける銀二達の決意に胸を打たれる結末となっている。

 

本作品に登場する恐竜は全てトゲと呼ばれており、江戸時代が舞台であるためか現代での名称が一切作中で表記されていないのも特徴的。メインとして登場するのが獣脚類、角竜類の恐竜であり、作中に登場するトゲがどの恐竜かを当ててみるのも本作の醍醐味である。

 

作者の木下いたるが2022年現在連載している『ディノサン』は、恐竜が生き残っていた現代を舞台にした恐竜飼育施設で働く職員の姿を描いたコミック作品。本作とディノサンは恐竜が絶滅しなかった世界が舞台という共通点があるが、本作は人が恐竜と相いれられなかったがゆえに人はトゲを狩る。一方、『ディノサン』では人類が恐竜と共存する道を選択する物語というように方向性が異なっている。人と恐竜の関係性の違いを両作品で読み比べながら楽しむことができるとかもしれない。

 

 

作品情報

書名:ギガントを撃て
著者:木下いたる
出版社:講談社