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【恐竜SFレビュー#22】フィジーで少年が出会ったのは首長竜だった

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恐竜SF紹介コラムの第22号は景山民夫の『遠い海から来たCOO』を紹介する。
フィジーで暮らす日本人の少年がプレシオサウルスの生き残りと遭遇するSF小説である。

 

「その巨大な生物は、荒れ狂う波浪に翻弄されながらも、確かにひとつの意思を持って自らの体をある水域へ運ぼうとしていた。」

 

荒波の中、ある生き物が泳いでいた。鮫の襲撃を受けて瀕死の重傷を負っていた生き物は力を振り絞って珊瑚礁に辿り着き、子供を出産すると力尽きて亡骸は海へ流されてしまった。

一方、フィジー諸島で海洋生物学者の父、小畑徹郎と暮らす少年、小畑洋助は珊瑚礁で見た事のない生き物を発見する。首が長く四つの鰭脚を持つ生き物を洋助は家に持ち帰り、徹郎にも見せて洋助はその生き物をCOO(クー)と名付けて飼うことになった。

徹郎が調べた結果、COOはプレシオサウルスの生き残りと判明。COOは刷り込みの影響で洋助を親と認識し、洋助もCOOに愛情を注いで育てることになり、本来会うはずのない人間とプレシオサウルスの交流が始まった。

 

「クーの活発さは目に見えて増していた。体重も増え、水に濡れて光る灰褐色の背中の高く盛り上がったあたりに、いくつもの濃い斑点が浮き出ていた。」


洋助とCOOが一緒に暮らし始めた頃、COOの母であるプレシオサウルスの亡骸が漂着し、フランスの特殊機関SDECEが動き出していた。

SDECEは生きたプレシオサウルスの個体、COOを確保するために小畑親子の家を襲撃。
COOはSDECEに連れ去られてしまったが洋介、徹郎はCOOを取り戻すためにSDECEに戦いを挑んでいく。

はたして洋助達はCOOを取り戻すことが出来るのか?それは是非ともご自身で読んで知っていただきたい。

 

本作は1987年6月号~1988年2月号に雑誌「野生時代」に連載された小説を書籍化した作品である。

少年とプレシオサウルスの生き残りを見つけたことから始まる冒険を描いた内容で、前半は洋介とCOOの交流、後半はCOOを狙うSDECEとの戦いに分かれている。

 

少年が首長竜と出会う話はドラえもん のび太の恐竜があるが、のび太の恐竜がフタバスズキリュウの卵を復元させて孵化させる話だったのに対して、本作はプレシオサウルスが現代まで生き延びていたという設定である。

 

 

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本作ではプレシオサウルスが卵生でなく胎生であるという説を採用し、COOの母親であるプレシオサウルスがCOOを産み落としているシーンが冒頭で描かれている。

また、本作では伝説上の怪物シーサーペントの正体がプレシオサウルスであるという仮説や、太平洋上で発見された生物の謎の死体ニューネッシーについても言及しており、当時の首長竜に対する価値観や仮説を伺うことが出来る作品となっている。

 

前半では美しい海洋環境の描写が描かれている一方で、後半でのSDECEとの戦いでは環境保護や反核実験などのメッセージも色濃く描かれている。

 

本作で登場するCOOを始め、プレシオサウルスは首長竜の一種で恐竜ではないが、恐竜が絶滅した一方で首長竜が生き残った理由に対してある仮設が挙げられているため、あえて本コーナーで紹介させていただく。


少年と首長竜のハートフルな交流と、現実には決してあり得ないことを生き生きとした描写で描き、両者に訪れる別れには涙なしには見れない作品である。また本作はアニメーション映画として1993年に公開されている。

 

著者の景山民夫は放送作家として『シャボン玉ホリデー』などを手掛けた後、1987年に『虎口からの脱出』で小説家デビュー。他にもホラー小説、『ボルネオホテル』なども発表している。

 

作品情報

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書名:遠い海から来たCOO
著者:景山民夫
出版社:KADOKAWA