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【恐竜SFレビュー #5】ウェルカム・トゥ・ザ・ジュラシック・パーク

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恐竜SF紹介コラムの第5号はマイケル・クライトンの小説、『ジュラシック・パーク』を紹介する。かつて地上を闊歩していた恐竜がもし、バイオテクノロジーで復活したら? 本作はそんな夢のあるテーマを扱った小説である。

 

地上一六メートルの高さにそびえる、巨大な生物の首

 

異変はコスタリカの孤島から始まっていた。

 

コスタリカの小村で、診療所に怪我人が運ばれてきた。怪我人の少年は建設現場の事故で怪我したというが、彼に残されたのは不自然な噛み傷。少年は「ラプトル」とつぶやき、息を引き取った。さらに観光客の娘が、小さくて奇妙なトカゲに襲撃される事件も発生する。

 

古生物学者のアラン・グラントはハモンド財団からコスタリカの孤島に招聘を受け、現地へ向かった。ハモンド財団は創設者のジョン・ハモンド指揮の元、恐竜研究を支援している財団であり、世界中で発掘された琥珀を買い漁り、コスタリカの政府から孤島を買い取っていた。

 

コスタリカの孤島では”ある施設”が建造されていた。

その施設こそ、ジュラシック・パーク

 

ここでは、バイオテクノロジーで復活した恐竜を飼育し、来園者に見せるためのアミューズメント・パークの建設が進められていた。グラントはジュラシック・パークで絶滅したはずの竜脚類の恐竜、アパトサウルスを目撃する。

 

「有史前の動物を遺伝子操作してこの島で放し飼いにする?けっこう。気宇壮大な夢だ。すばらしいじゃないか。しかし、きっと計画どおりにはいかない。天気と同じように、予想外のできごとが連続するぞ」Byイアン・マルカム

 

ハモンド財団が設立したバイオテクノロジー専門の企業、InGen社によって復活した恐竜で金儲けを目論むハモンド。数学者のイアン・マルカムは自然の摂理に逆らって恐竜を復活させることを危惧して警告するが、それはやがて現実のものとなる。

 

パーク内で飼育されている恐竜の性別は全てメスで繁殖するはずがなかったが、なぜか繁殖してしまっていた。さらに、管理されていたはずのシステムに綻びが生じ、ティラノサウルスやラプトルがパーク内の人間に襲いかかってくる。果たして人間は、牙を剥いた恐竜の襲撃から生き残ることが出来るのだろうか?

 

バイオテクノロジー小説としても秀逸なパニックSF

 

本書ではコスタリカの各地で起きる不可思議な事件から始まり、ジュラシック・パークで飼育されている恐竜が復活した理由、パーク内で起きる異変、恐竜の襲撃、そしてサバイバルが書かれている。

 

読みどころは恐竜の復活を科学的に、かつバイオテクノロジーを踏まえて書いているところにある。

 

パークの恐竜は過去の時代からタイムトラベルしてきた訳でもなく、精巧なロボットでもない。生きている恐竜だ。恐竜の復活については、パークの主任遺伝学者ヘンリー・ウーの説明で語られていく。その説明はこうだ。

 

恐竜のDNAを、琥珀の中に閉じ込められた蚊が吸った、恐竜の血から採取。そのDNAをコンピュータで解析し、ワニの未受精卵に注入して孵化させる手法で恐竜を復活させている。恐竜のDNA全てを再生できる訳ではないため、欠損部位は現存する生き物であるカエルのDNAも用いており、これがパークで起きる危機の発端となっている。

 

本書執筆当時、バイオテクノロジーの研究も進められており、実際に9900年前の琥珀の中から、恐竜の血を吸っていた吸血ダニが発見されている。
もっとも現実には、琥珀の中に保管された血液からDNAを再生するのは難しいようだが、剥製や氷漬けの状態からDNAを採取して、マンモスなどの絶滅動物を復活させる研究が行われており、本書内でテーマとなる恐竜の復活もあながち絵空事ではないだろう。

 

恐竜の復活を肯定的に捉えるのではなく、命の再生に手を出してしまい人間が神の真似事をすることを危惧し、警鐘を鳴らしている作品でもある。復活した恐竜が人間を襲っていく描写も非常にスリリングで、暴走したテクノロジーの行き着く果てに待ち受けるものを書いている。

 

また、バイオテクロノロジーと同じく本書で重要なキーワードとなっているのがカオス理論である。カオス理論は、自然のように複雑な要素が絡み合うことで正確な予測が出来なくなるような事象を扱うものを指す。本作では数学者のマルカムがカオス理論を持ち出し、ジュラシック・パークの危険性を訴える。読み進めていくにつれてその主張が現実味を帯び、そしてパークでの事件にも繋がっていく。

 

バイオテクノロジーやカオス理論など、科学的なキーワードが登場すると難解に感じてしまうかもしれないが、実は図や表も挿入されているため、読む上での手助けになっている。一方、サバイバルが始まると一転、躍動感ある文章となり、エンターテイメント小説としても楽しめる一作である。

 

登場する恐竜は、グラントが初めて生きている恐竜として対面したアパトサウルス、人間を襲うティラノサウルスラプトルマイアサウラトリケラトプスなどである。続編として『ロストワールド ジュラシック・パーク2』が書かれており、登場人物や恐竜のその後が書かれている。


一般には映画のほうが有名であろう。本書はスティーブン・スピルバーグによって1993年に映画化され、シリーズとして計5作公開されている。一作目『ジュラシック・パーク』で、再生された恐竜が闊歩するシーンの映像表現は圧倒される。

 

著者のマイケル・クライトンは本書の他に宇宙から飛来した病原体の恐怖を書いた『アンドロメダ病原体』、異星人の宇宙船との接触を書いた『スフィア-球体-』、中世へのタイムトラベルがテーマの『タイムライン』などのSF系の小説や、廃墟となった鉱山跡からダイヤモンドを発掘する冒険小説の『失われた黄金都市』も書いている。

 

書誌情報

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書名:ジュラシック・パーク

作者:マイケル・クライトン

出版社:早川書房

出版月:1990年