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【恐竜SFレビュー#12】新しそうなダイナソー

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恐竜SF紹介コラムの第12号はドゥーガル・ディクソンの恐竜図鑑『新恐竜』を紹介する。
恐竜がもし絶滅せず現代まで生きていたら、どんな進化を遂げていたのか?思弁進化をテーマに進化した恐竜の姿を解説した図鑑である。

 

中生代の三畳紀、ジュラ紀、白亜紀にかけて進化して地歩を築いた恐竜や翼竜は、今またさまざまな姿かたちに変わっている。

 

現代まで生き延びた新恐竜が登場する前に、新恐竜の生息する動物地理区を解説している。新恐竜が生きている地球では7つの動物地理区に分かれている。


現実のアフリカ大陸に該当するエチオピア区。ヨーロッパからヒマラヤ山脈以北のアジアまで広がる旧北区。北アメリカ大陸の内、メキシコ砂漠から北に該当する新北区。南アメリカ大陸と中央アメリカの新熱帯区。東南アジアに該当する東洋区。オーストリアに該当するオーストリア区。これらの大陸に海洋を合わせた7つの動物地理区である。
動物地理区の自然環境の解説を踏まえ、各地理区に生息する恐竜を解説していく。

 

エチオピア区の生息環境は実にさまざまであり、中心部の熱帯雨林から北・東・南のほうへと遠ざかっていくにつれ、あたりの風景は草原に移っていく。

 

熱帯雨林やサバンナ、砂漠で構成されているエチオピア区に生息するハチを捕食するワスプイーター、翼竜の末裔であるランクが存在している。


白亜紀終了後に樹上で生息する恐竜が増えていき、気候変動の中でも熱帯雨林の樹木で生き残ったのがワスプイーターである。ワスプイーター木登りに特化したカギヅメを持ち、長い口先でハチを捕食している。


草原が広がったサバンナでは翼竜が飛行能力を捨てて、地上生活に特化していった。その1種が現実のキリンに近いランクである。翼が前肢になり、首が長くなった身体になっている。

 

旧北区は最大の動物地理区で、地球上で最も広い大陸が含まれている。ここは東西が1万7000キロメートルもあり、南北は一番長いところで約7000キロメートルにも及ぶ。

 

旧北区は最北のツンドラ、ツンドラの下に世界最大の森林地帯、南の草原、砂漠で構成されている。


落葉樹林に生息するゲシュタルトはコロニーを作り、共同生活を送る社会性を持った新恐竜である。ゲシュタルトは女王、兵隊に分かれた階級社会を持つが、パケファロサウルスの末裔であり、その名残で兵隊のゲシュタルトにはかぶとに有毒のトゲが生えている。


凍原のツンドラでは樹木が存在せず、コケ等しか生えない極寒の地であるが、そこに生息するのがトロンブルという大型の鳥類である。ツンドラは極寒の環境であるため、恐竜は生息できないが、体温を保持できる鳥類がツンドラに適応した。トロンブルは全身を覆う黒い羽毛で熱を保ち、硬いくちばしで植物を捕食している。

 

新北区は大陸と複数の島からなる新北区は、ほぼ三角形の形をした動物地理区で、南の砂漠地帯から氷冠でおおわれた北の極地方まで大きくのびている。

 

新北区は極寒から熱帯まで幅広い環境で構成されており、草原ではハドロサウルス(カモノハシリュウ)から進化したスプリントサウルスが生息している。ハドロサウルスは二足歩行で生息していたが、草原に適応したスプリントサウルスは四足歩行となり、二足歩行で必要だった尾は逆に退化している


氷河に覆われた山岳地帯に生息するマウンテンリーパーは大きな脳を持った肉食恐竜で白い毛皮に覆われており、岩を跳び回り小型哺乳類を捕まえ捕食していく。

 

新熱帯区は北西部の非常に狭い地峡で新北区の大陸とつながっているだけで、ほとんど孤立した島のようなものだ。

 

新熱帯区の北部一帯はほとんど熱帯で、熱帯雨林の南にのびる低地帯は草原となっている。
熱帯雨林の沼地に生息するウォーターガルプはジュゴンのような新恐竜で、先祖はヒプシロフォドン。しかし、俊足であった先祖とは異なった生態になり、後肢はヒレに進化している。


草原に生息するグルマンはティラノサウルスの末裔である。体長17m、重さ15tの巨体を持つグルマンは前肢が退化して消滅し、獲物を捕らえるのではなく腐肉を漁る生態となっている。

 

東洋区は全動物地理区のうちで最も小さく、さまざまな点で、他の動物地理区とはっきり区別するのがむずかしいところだ。

 

北の広大な大陸の一部である東洋区は荒地、サバンナ、赤道上の熱帯雨林で構成されている。


サバンナでは竜脚類ティタノサウルスから進化したラジャファントが生息しており、祖先と同じ外見だが群れで行動する社会構造を獲得している。


熱帯雨林に生息するナムスカルはパケファロサウルスの末裔で、ナムスカルは祖先と同じ外見を持ち、仲間同士で頭突きする性質も変わっていない。

 

すべての動物地理区のなかで、オーストリア区ほど、他の地理区の影響が少なく、孤立した環境のところはない。

 

ほかの動物地理区から孤立した環境のオーストリア区では独自の進化を遂げた新恐竜も生息している。


祖先にヒプシロフォドンを持つタブは熱帯雨林に生息する新恐竜だが、現実のコアラと同様にユーカリノキを食べて、木をゆっくり昇り降りしている。


乾燥した砂漠地帯ではイグアナドン類の最後の生き残り、グワナが生息している。新恐竜の地球では他の恐竜との生存競争に敗北したイグアナドンだったが、オーストリア区は隔離された環境だったため、グワナとして生き延びている。

 

大陸と違って、海洋には、きちんと分かれた動物地理区がない。海の水はどこまでもつながっており、動物が移動するのに妨げとなるものはほとんどないからだ。

 

最後の動物地理区は地球表面の70%を占める海。


海岸に生息するプランジャーはペンギンに近い外見だが、飛行能力を放棄した魚食の翼竜で、岩島で集団営巣している。
外洋にはアンモナイトが進化したクラーケンが生息しており、4mの殻の巨体から生える12本の腕で魚や浮遊植物を捕らえている。

 

恐竜が現代に生きていれば、当然、中生代にいた恐竜とはまったく違っているはずである。そうであっても、恐竜の壮大さや不思議さの魅力が減る訳ではない。Byソネ博士ドゥーガル・ディクソン

 

本書は現代まで生存して、進化した恐竜が登場する図鑑であり、厳密にはSFではないかもしれない。しかし、新たな環境に適応して姿かたちを変えた恐竜が登場する内容からセンス・オブ・ワンダーを感じることができる一冊である。


新恐竜や動物地理区の前には恐竜の定義、恐竜の絶滅に関する解説も詳しく書かれており、導入内容も充実している。

 

現実の地球では絶滅してしまった恐竜だが、生き延びた時の姿を見ることができる図鑑で視覚的にも楽しめる作品である。

 

本書は日本では3種類刊行されており、初めて刊行された太田出版版、新版として刊行されたダイヤモンド社版、2019年に刊行された児童書版である。


児童書版では各新恐竜のルーツの恐竜も加えられており、進化前・進化後の比較ができる内容となっている。


また新恐竜のマンガ版も刊行されており、各話毎に異なる新恐竜を主人公にして様々な環境で生きる新恐竜の生態をビジュアルで見ることができる作品となっている。

 

著者のドゥーガル・ディクソンはスコットランドのサイエンスライターで本書の他に人類滅亡後の世界で生息する動物図鑑の『アフターマン』、500万年後、1億年後、2億年後の地球に生息する生物をテーマにしたノンフィクション『フューチャー・イズ・ワイルド』なども書いている。

 

 

作品情報

 

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書名:新恐竜 進化し続けた恐竜たちの世界
著者:ドゥーガル・ディクソン
出版社:ダイヤモンド社
※電子書籍版で入手可

出版年:2005年

 

書名:新恐竜 絶滅しなかった恐竜の図鑑 児童書版
著者:ドゥーガル・ディクソン
出版社:学研プラス

出版年:2019年