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【恐竜SFレビュー#9】人類VS恐竜人 白亜紀の血戦

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恐竜SF紹介コラムの第9号は豊田有恒の小説『ダイノサウルス作戦』を紹介する。

 

恐竜が人類と同じように知的生命体に進化した世界があったら?人類と恐竜人の互いの文明を死守する攻防が書かれた時間SF小説である。

 

原日本列島にあたるアジア大陸の東端は、亜熱帯性の気候をもつ穏やかな天地だった。この楽園の支配者―神に等しいものは、もちろん神でも人間でもない。その優占種は、恐竜だった。

 

 白亜紀後期末、七千万年前にタイムトラベルした調査隊は何者かの襲撃を受けていた。

 

謎を解明するためこの時代に降り立ったタイムパトロール隊員、ヴィンス・エベレットは、襲撃者が人間の死体を放置し、この時代に生息する恐竜ドロマエオサウルスの死体を丁重に埋葬していた痕跡を見つける。

 

ヴィンスはドロマエオサウルスが二足歩行し、集団で狩りを行う光景を目にして、ドロマエオサウルスは人間と同じく知性を持つ種族であることを知る。

 

その時、新たなタイムマシンがタイムトラベルしてくる。しかし、それは襲撃者側のタイムマシンだった。

 

襲撃を受けてヴィンス達は逃亡する。その最中にドロマエオサウルスがエゾミカサ竜と戦っている状況に出くわすが、調査隊の生き残り、ジョー・サエキがドロマエオサウルスに加担してエゾミカサ竜を光線銃で打ち抜き、倒した。

 

ヴィンス、サエキ達はドロマエオサウルスと対面し、彼らを統括する酋長に引き合わされる。


酋長はヴィンス達を見定めるべく、ヴィンスと格闘になる。それによってヴィンス達を認め、ヴィンス達はドロマエオサウルスの集落に受け入れられた。

 

ヴィンス達は襲撃者に反撃するため、彼らの拠点を襲撃。一人を捕らえるが襲撃者は人の言葉を理解し、話す力を持っていた。また、襲撃者の遺体を解剖した結果、彼らは恐竜から進化した知的生命体であることが判明した。

 

「ドロマエオサウルスは、われわれ人類の先行型とも呼ぶべき種だ」Byソネ博士

 

襲撃者の正体、それは恐竜から進化した知的生命体だった。人間とは異なる存在・異類と接触することになったヴィンス達。異類は捕虜にしていた古生物学者のソネ博士をヴィンス達に引き合わせる。

 

ヴィンス達はソネ博士との再会を果たすが、タイムパトロールの本部30世紀から増援がタイムトラベルしていることを知らされる。
この時代が人類史を覆しかねない分岐点となっていたのだ。

 

ヴィンス達は異類の正体を知る。それは、人類が誕生しない代わりにドロマエオサウルスから進化した知的生命体が誕生した時間軸から来た存在、いわば恐竜人だった。この白亜紀後期末は、ホモ・サピエンスが誕生した地球史、恐竜人である異類が誕生した地球史、二つの分岐点である。

 

地球史に二つの流れは両立しない。

 

すなわち、どちらかの文明は消滅しなければならなかった。

 

生き残るのは二種族の内、一つ。互いの進化史を守るための戦いが始まった。
人類の進化史は存続することができるのだろうか。

 

SFでは歴史のifをテーマにした歴史改変SFが数多く存在するが、本作は恐竜が進化して人類に代わる存在になっていたら?という作品である。


人類と異類のどちらかが生き残るかの結末は割愛するが、どちらかが勝利してどちらかが敗北することが決まっているため、ビターで余韻を感じさせる結末となっている。

 

本作ではドロマエオサウルスが知性を獲得し、更に進化した恐竜人、異類が登場している。恐竜が進化した恐竜人のアイデアは古生物学者デイル・ラッセルが1982年に恐竜人の模型ディノサウロイドを発表しているが、それに先駆けること5年前に発表された作品である。

 

登場する恐竜もキーとなるドロマエオサウルスの他にもフタバスズキ竜エゾミカサ竜も登場し、恐竜だけでなく人類の先祖である原始的な哺乳類の描写も細かく書かれている。エゾミカサ竜は現在では肉食恐竜ではなく、モササウルスに近い海棲の爬虫類であると判明しているが、本書ではまだティラノサウルスに近い肉食竜のイメージで登場している。

 

ドロマエオサウルスが何故知性を獲得したのか?この謎の答えも作中で明かされており、互いの種族を理解しつつも衝突してしまう2種族の攻防を書いた壮大な時間SF小説である。

 

著者の豊田有恒は小松左京、筒井康隆、星新一たちと共に日本のSF黎明期から作品を発表している。本書の主人公であるヴィンスが主役のタイムパトロールシリーズ(長編4作、短編集1作)の他、異星人の襲来を受けた31世紀を舞台に未来人に召喚された古今東西の偉人が異星人に立ち向かう『スペースオペラ大戦争』なども書いている。

 

 

作品情報

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作品名:ダイノサウルス作戦

作者:豊田有恒

出版年:1979年(連載:1977~78年)

出版社:角川春樹事務所