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強大さも思考も天井知らずの伝説の巨神——【セレスティアルズ CELESTIALS】

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まずはこれを御覧ください。

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eternals#3

 1976年発行の『THE ETERNALS #3』の冒頭のシーンなのですが、この巨大で異様な人物こそ、今回御紹介するセレスティアルズなのです。見開きページにもかかわらず頭部と右手、胸部の一部しか見えない巨大さ! 右手に描かれた理解不能な謎の紋様! 記号のようなものが配置されているだけで目も耳も鼻も口もなく表情が読み取れない顔! 

 画面下側でスクリーンを通して見ている人々のうち左下にいるのがこの物語の主人公イカリスなのですが、この対比を見るだけで絶望的な異質感・戦力差が伝わってくるかと思います。

 

 アメコミ界のキングの異名を取るジャック・カービーが創作した『THE ETERNALS』では、遙か太古に地球へセレスティアルズの超巨大宇宙船が飛来し、類人猿を捕獲して生体処置を施し、3つの種族が生み出されたことが描かれました。
 1つめの「ディヴィアンツ」は形質の変異が大きく異形で好戦的な者が多い種族、2つめは我々「人類」、そして3つめは神話の人物のように強力で不死だが、繁殖力や変異に乏しい「エターナルズ」です。そう、セレスティアルズとは人類を含む3種族の創造主なのです! 『2001年宇宙の旅』などの「宇宙種族により人類が進化した」というテーマの系譜に連なる作品と言えます。

 

 セレスティアルズは第1回目の来訪(ファーストホスト)の後、二度にわたって地球を訪れ、生み出した種族の観察を行ってきました。好戦的なディヴィアンツは当時、捕らえた人類を奴隷化し、創造主セレスティアルズにも挑みましたが、戦闘に秀でるディヴィアンツの攻撃もまったく通じず、都市ごと海へ沈められてしまいます。過去にセレスティアルズの姿を目撃したインカの民は、その異形を神の姿として記録しました。
 そして第4回目の来訪(フォースホスト)として、いまふたたび巨大宇宙船が飛来します。台座の上に今回の来訪のリーダー格であるセレスティアル「審判者アリシェム」が降り立ち、50年間の観察の後に生み出した種族たちの生存か絶滅かの審判が下される、というのが最初にお見せしたシーンです。

 

 3つの種族のうち、人類は地球全土に広がり最も繁栄しましたが、セレスティアルズについては僅かな記録しかなくこの事態を知りません。ディヴィアンツは一度手酷い敗北を喫しているため、宇宙服で偽装し宇宙人を名乗って人類を煽動しセレスティアルズと戦わせる作戦に出ます。しかし、セレスティアルズとは会話や意志の疎通ができず、そもそも何故3つの種族を創る実験のようなことをしているのか、どうしたら生存を認めてくれるのか、誰にも判りません。
 エターナルズの主流派は、人類にセレスティアルズの知識を伝え、共に解決策を模索する手段に出ました。しかし好戦的なエターナルズもいて、セレスティアルズに武力で対抗しようと暗躍します。このように勝利条件が判らぬまま様々な人物が躍動する群像劇が、『THE ETERNALS』の醍醐味です。

 

 ソ連はセレスティアルズに対し核ミサイルの発射を決めますが、セレスティアルズは大規模な幻影によって簡単に防いでしまいます。エターナルズはたくさんの人数が合身して巨大な脳髄となり強力な思考力や超能力を得る「ユニ・マインド」により事態解決を図りますが失敗。人類はセレスティアルズの宇宙船へ宇宙機を向かわせ、ディヴィアンツは時を同じくして自爆宇宙船を発進、そしてそれを止めるためエターナルズの中でも名前を剥奪された「フォーゴットン・ワン(過去に英雄ギルガメッシュとして活躍した者)」の宇宙船も急行します。地球上に来訪しているものよりさらに高位のセレスティアルズ「ワン・アボーブ・オール」は、各宇宙船の乗組員たちを別種族の宇宙船に転送し、自爆宇宙船と運命を共にしたフォーゴットン・ワンを救うという謎の行動を取るのでした。
 物語の終盤では好戦的なエターナルであるドルイグが過去の記録にあった「セレスティアルズをも滅ぼすエネルギー砲」の存在を知ってイカリスと戦い野望を実現しようとしますが、最終回でセレスティアルズはそのエネルギーさえも簡単に消去してしまいました。THE ETERNALS誌はセレスティアルズによる最後の審判がどうなるのか描かれないままタイトル終了となってしまいます。

 

 エターナルズの活躍はその後、ジャック・カービーが1960年代に創作した同じ神話系キャラクターである『マイティ・ソー』のタイトルで主に展開されました。1980年の『THOR #300』記念号では、ついにセレスティアルズ9体と地球側との大決戦が描かれます。

 

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thor#300

 全てのアスガルド神族の魂を注入され、それを増幅した超パワーで巨大化した「デストロイヤーアーマー」が、伝説の呪具ニーベルングの指輪を溶かして製作された「オーバーソード」を持って立ち上がります。この2つは過去にセレスティアルズに屈した経験を持つ主神オーディンが彼らとの戦いに備えて用意していたものだったのです。
 さらに、全エターナルズが合身したユニ・マインドも決戦に登場します。しかし、地球の神々の力を合わせ増幅した彼らすら、セレスティアルズの前にはまったく通じず、惨敗します。ただ一人残されたソーは勝ち目が全く無くとも戦い続け、ついにムジョルニアの一撃が審判者アリシェムの台座を砕き、転倒させました。
 僅かなチャンスにオーバーソードでアリシェムを貫くソー。が、アリシェムは何事もなかったようにオーバーソードを消滅させてしまうのです。絶体絶命の状況ですが、ソーを庇う大地の女神の願いと、彼女が示した地球で神の位置まで進化した人々を認めたのか、審判者アリシェムはその指を上にあげ、地球生存を決定するのでした。

 

 1987年の『SILVER SURFER Vol.3 #4-5』では、スクラル人が支配するタラカー星に、自称・皇帝キラーの前にセレスティアルの分析者・ジェミアーが現れます。キラー皇帝は最初は対話を模索しますが短気を起こし攻撃を開始してしまいます。核すら使用しますが全く通じず、他種族を倒すことでスクラル人の優位性をセレスティアルズに示すために第2次クリー・スクラル戦争を開始してしまいます。
 この話で、スクラル人もセレスティアルズに創造されたこと、現在のスクラル人は3つの種族のうちのディヴィアンツであり他の2種族を排除し発展したことが語られ、セレスティアルズについての世界観が地球だけでなく宇宙へ拡張されました。オリジナルの作者の世界が他の作者の手でより深くなっていくという、長く続き様々な作者が関わるアメコミの良さが最高に現れた展開でした。

 

『THOR #387-389』(1988年1-3月号)では、ソーは不時着したパンゴリア星にアリシェムが審判のため来訪したのを知り、この地を守るために再び対峙し、以前のように台座を破壊します。しかしアリシェムは今度は見えない力場の上に立っていて転倒せず、その上、数百メートルはあるアリシェムも比較にならないほど巨大な、さらに高位のセレスティアル「絶滅者エクシター」が現れるのでした。

 

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thor#388


 まともに戦っては絶対勝てないこの相手に対し、ソーはエクシターの体内に突入します。しかし、そこには防衛用の巨人兵士がおり、ムジョルニアに似せたハンマーまで持った大軍勢として襲来しますこの戦いのなか、ソーの記憶を読んだエクシターはソーを解放し、この星の独裁者である海賊王・ペガスを消滅させパンゴリア星を解放するのでした。

 

 1997年の『HEROES REBORN: THE RETURN』では、オンスロート事件後にヒーローたちを消滅から救うため、ファンタスティック・フォーの息子フランクリン・リチャーズが現実改変能力で別の世界を創造していました。両親を含むヒーローたちを元の世界へ戻そうとするため、一人の女性が同行します。アシェーマというこの女性は、見た目は人間に見えますが実はセレスティアルズでした。人類が変異したミュータントとして最高の能力を持つフランクリンを観察する間に、その心に触れ、愛情を持って保護し、最後は一同を元の世界に戻すため力を使い果たし、本来のセレスティアルズの姿で眠りに就くという、これまでにない人間くさい面を見せます。


 1999年の『EARTH X』はパラレルワールド設定です。本作では、セレスティアルズは宇宙の様々な惑星の内部に自分たちの種子を植え、それを守るために原住生物を変異させ超人にし自分たちの繁栄に利用していたとされています。明確に敵役として、種子を孵化させ地球を破壊するため月面に襲来したセレスティアルズとの一大対決が描かれました。

 

 セレスティアルズはそのあまりの存在感の大きさから逆に、1991年の『INFINITY GAUNTLET』にて他の宇宙神ともどもサノスに完敗するなど、より強い敵に倒される役回りでした。
 1995年の『Fantastic Four #400』ではインビジブル・ウーマンのフォースフィールドは5次元からの波動をエネルギー源にしているためセレスティアルズにも有効との設定がされたり、2018年のAVENGERS誌のファイナルホスト編では地球を滅ぼそうと襲来したダーク・セレスティアルズにエターナルズから得た力で一時的なパワーアップをしたヒーローたちが普通に対抗できたりするなど、敗れる展開も増えました。


 なかなか使い辛いキャラクターではありますが、人類の創造神であり、その謎と強大さは実に魅力的です。映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』で銀幕デビューも果たしており、2021年11月には映画『エターナルズ』も公開される予定のため、おそらく必ず出ます。今後も注目です。

 

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