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【恐竜SFレビュー#20】少年が漂着した島はロストワールドだった?

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恐竜SF紹介コラムの第20号は海野十三の『恐竜島』を紹介する。少年とその相棒の犬が恐竜の住む島に漂着し、そこでの冒険が描かれる古典冒険SF小説である。

 

人間は、それぞれに宿命というものをせおっている。つまり、生まれてから死ぬまでのあいだに、その人間はどれどれの事件にぶつかるか、それがちゃんと、はじめからきまっているのだ。

 

物語は少年の玉太郎が汽船で船旅をするところから始まる。

玉太郎は豪州を見物するため、汽船による船旅を愛犬のポチと過ごしていた。しかし、突如として汽船モンパパ号は爆発を起こし、玉太郎とポチは漂流する羽目になってしまう。玉太郎とポチは即興で作った筏で難を逃れ、汽船で親しくなった新聞記者のラツールと合流する。二人と一匹は漂流の末、絶海の孤島へ漂着する。

 

玉太郎達は、スコールや地震にも見舞われながらも、ヤシの実で渇きを癒したり、漂着した電球をレンズ代わりに火を起こしたりしてサバイバル生活を始めたが、ある時ラツールとポチが行方不明となってしまった。

一方、玉太郎がサバイバル生活を送っている無人島に、セキストン伯爵が指揮するシー・タイガ号が向かっていた。セキストン伯爵はかつてこの島を訪れたことがあり、そこでセキストン伯爵は恐竜と遭遇したのだという。

 

恐竜島へは、明るいうちにはぜったい近よれなんだ。この前、わしたちはこりごりしている。わしたちが逃げだすときだった。救いに来てくれた船に乗りうつって、やれやれ安心と思ったとき、島の上に一ぴきの恐竜がいて、こやつの目がぴかりと光った。Byセキストン伯爵

 

セキストン伯爵は島へ上陸するための先遣隊を、自身も含む10人で結成しボートで島へ向かう。しかしその途中、シー・タイガ号は海から出現した恐竜の襲撃で沈没してしまった。島へたどり着いた伯爵一行は玉太郎と合流し、一行は島を探検するために島の奥地へと進んでいった。
玉太郎は探検の途中でポチ、ラツールと再会するが、玉太郎も恐竜と遭遇してしまう。彼らが漂着した島は恐竜が生息する恐竜島だったのだ。玉太郎達は恐竜島から生還できるのだろうか?それは是非ともご自身で読んで知っていただきたい。


本作は少年向けの雑誌、「P.T.A.世界少年」に連載され、その後『海野十三全集』に収録された作品である。

 

恐竜が秘境で生き延びていた設定の作品はコナン・ドイルの『失われた世界』やエドガー・ライス・バロウズの『時間に忘れられた国』などが存在するが、本作は日本で書かれた『ロストワールド』的な作品の中でも古典に近い小説である。

発表されたのが1948年と、コナン・ドイルの『ロストワールド』の影響を受けている作風となっており、掲載誌が少年誌だったのもあって少年が主役であり、少年の愛犬が冒険のお供になっている展開といいジュブナイル小説の要素を持っている。

 

恐竜の住む島での冒険がテーマであるが、中盤では恐竜島に隠された海賊の秘宝を巡る戦いが展開される、『宝島』を彷彿するような内容になっており、古き良き冒険譚として楽しむことができる一作である。

惜しむらくは登場する恐竜の名称が作中で明かされていないことだ。「首の長い巨体の恐竜」というようにしか描写されてないことから想像するに、おそらくはブロントサウルスなどの竜脚類の一種なのだろう。

 

本作は著作権が切れた作品を一般公開するインターネット上の電子図書館、青空文庫のラインナップにも入っている。半世紀以上前に書かれた恐竜SFとして、是非読んでいただきたい。

 

www.aozora.gr.jp

 

著者の海野十三は日本SFの祖とも言える作家で、空想科学小説では音楽による人民統治を行うディストピアが舞台の『十八時の音楽浴』、火星人との戦いを描いた『火星兵団』などを発表している。

 

作品情報

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書名:恐竜島

著者:海野十三

青空文庫