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世界や次元を見守る高位種族――【ウォッチャー WATCHERS】#7

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時は1963年(『Fantastic Four #13』)。アメリカのリード・リチャーズ(『ファンタスティック・フォー』のミスター・ファンタスティック)とソ連のイワン・クラゴフはそれぞれ月ロケットを開発し人類初の月面着陸に成功しました。驚くべきことに月の「青のエリア」には空気があって街が広がっており、両グループはそこで禿頭の巨人異星人「ウォッチャー」と出会います(後に個体名がウアトゥだと設定されます)。ウォッチャーは全宇宙の観察を行っている種族であり、これから宇宙へ進出しようとしている地球人類を見守っていたのでした。『幼年期の終り』のオーバーロードのような、人類を見守る高位存在ですね。


文明に過度に干渉しない観察者たち

 

ウォッチャー(ウアトゥ)は『TALES OF SUSPENSE #49』(1964年1月号)から10号に渡り各号5ページのバックアップストーリーで、自分のこれまでの体験を読者に語り始めます。地球誕生以前の遙か過去において彼らの種族は超発展し不死を実現、体をエネルギー化して超光速宇宙飛行すらできるまでになります。リーダー格のアイコー(ウアトゥの父)は彼らの知識を他種族にも伝えたいと考えますが、その善意の行動の結果、伝えた技術により異星で核戦争が起こり壊滅するという事態を招きます。以降、彼らはウォッチャーを名乗り、観察と記録はするが干渉をしないことを誓ったのでした。


 ただ、ウアトゥは観察してきた地球に愛着を持ったようで、地球消滅レベルの危機には助言してくれるようになります。『Fantastic Four #20』では偶然にも全宇宙の分子を自由に操作できる能力を持ってしまったモレキュルマンの危険性をファンタスティック・フォーに警告。『STRANGE TALES #134』ではザ・シングとヒューマントーチを中世のキャメロットへ送り、タイムトラベルして歴史をまるごと作り変えようとする征服者カーンの野望を阻止させました。『Fantastic Four ANNUAL #3』はドクター・ドゥームが全ヴィランを操ってリードとスーザンの結婚式へ指し向けるという大展開でしたが、ウォッチャーは人を過去の時間へ戻す装置をリードに貸し出すことで事件を解決しました。このへん、だいぶファンタスティック・フォーに思い入れがあることがうかがえます。

 

そして『Fantastic Four #48-50』にて惑星のエネルギーを吸収して滅ぼしていく宇宙魔神ギャラクタスが地球へ襲来した際には、事前に地球を隠す工作をしたあと、ヒューマントーチを導いてギャラクタスの宇宙船に忍び込ませ、宇宙消滅装置アルティメット・ニュリフィアーを入手させることでギャラクタス撤退の交渉材料にして、地球を滅亡から救いました。『Fantastic Four #261-262』でギャラクタスを消滅から救った罪でリードが宇宙裁判にかけられた際には、このコミックの作者ジョン・バーン、アスガルドの主神オーディン、ギャラクタス本人、宇宙そのものの人格であるエターニティーという強力弁護陣営を集めて勝訴に貢献しました。このようにウアトゥは非干渉を旨とするウォッチャーにしては人間らしい情を持っているのです。

 

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1966年 Fantastic Four #48

時間軸を越えて観測し続ける者

 

 1977年2月号からスタートした『WHAT IF…?』誌は、毎回ウアトゥが語り手となり、これまでのコミックで描かれた歴史とは一部が異なるパラレルワールドについて話すという形式で展開しました。つまりウォッチャーの観測対象は一つの時間軸だけでなく、分岐する無数の世界線全てを把握していることになります。1992年の『WHAT IF…? Vol.2 #41』のパラレルワールドでは、リードらがロケット実験に失敗して死亡したためファンタスティック・フォーが誕生しませんでした。ジョニーにネイモアが発見されないのでネイモアにより氷中のキャプテン・アメリカが開放されるイベントもないため、ギャラクタス襲来時にキャプテン・アメリカがいない状態のアベンジャーズが立ち向かうのでした。ヒューマントーチではなくアイアンマンがギャラクタスの宇宙船への潜入した結果失敗し、シルバーサーファーも味方にならないため地球滅亡が迫ります。

 

ここでウアトゥが意を決し、誓いを破りギャラクタスと格闘(!)という驚愕の展開をしますが、敵わず死亡してしまいます。ギャラクタスはウアトゥのエネルギーを吸収したことで飢えが満たされ、彼を殺したことを後悔し、遺体をウォッチャーたちの元へ送り届け、全ウォッチャー参列のもと盛大な火葬が執り行われるのでした。

 

観測のためなら手段を択ばないアロン

 

 ウアトゥは『CAPTAIN MARVEL #39』にて地球に干渉を行った罪を問われ同族から裁判にかけられましたが、誓いを守ると約束し無罪放免となりました。ここでアロンという若いウォッチャーが登場します。ウアトゥの甥・アロンは後に『Fantastic Four #321』で地球に現れ暗躍を開始。対象を観察するための手段を選ばない彼は、ファンタスティック・フォーのクローンを作成しオリジナルと入れ替え、全てを自分のコントロール下に置いた上で観察を行う野望を達成します。しかし冷凍睡眠の夢の中でヒューマントーチが炎を出したため冷凍が解け、オリジナルのファンタスティック・フォーは脱出し逆襲に成功しました。


『Fantastic Four #369』で再登場した時には、ベン・グリムの友達であるアリシア・マスターズという盲目の女性を誘拐し、自作した小宇宙とアリシアの心をつなげた疑似世界を観察するという野望に着手します。この時はドクター・ドゥームにパワーを奪われ失敗に終わりました。さらに『Fantastic Four #388』からはアロンはウアトゥに化けてまたも暗躍し、太陽系を自分の意のままにできるポケットユニバースへ変換する野望を進め、もはやウォッチャーからも脱した「背信者アロン」となり圧倒的な力を振るいますが、『Fantastic Four #400』にてファンタスティック・フォーやウアトゥの行動で阻止され消滅していきました。アロンは観察対象を自分でコントロールしたいという野望を持った異端のウォッチャーで、他のウォッチャーと同様の強大な能力を私欲に使い長い間暗躍を続けた強敵でした。

 

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1995年 Fantastic Four #400


ウォッチャーはその役割上、地球や宇宙の危機的状況ではその都度姿を現すため、沢山のコミックに登場しました。近年では2013年の『FF Vol.2 #13』で女性ウォッチャーのウラナがウアトゥの妻となり子を身籠もるなど新たな展開もありましたが、2014年のクロスオーバー『ORIGINAL SIN』ウアトゥが目をくり抜かれた上で殺害されているのが発見されるという衝撃の最期を迎えてしまいました。これは結局、地球防衛のためウォッチャーの力を求めたニック・フューリーが犯人でした。悲しいことに、これまで地球を見守り助けてくれた優しい宇宙人はもういないのです。しかし、宇宙にはまだ他のウォッチャーたちが存在していますし、未来にウォッチャーが登場する話もあります。ウォッチャーが死んだ世界線も他次元のウォッチャーにより今も観測されているのでしょう。

 

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2014年 FF #14

 

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