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【恐竜SFレビュー#13】遊星ママンゴ大接近 ロストワールドは宇宙にあった?

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恐竜SF紹介コラムの第13号は手塚治虫の漫画『ロストワールド-私家版-』を紹介する。
太古の昔、地球から分離した遊星、ママンゴ星。そこには恐竜が生き残っている世界だった。本作は、地球とママンゴ星を舞台にしたSF冒険活劇漫画である。

 

かうしてこの記録をつづってゐると、わたしが今度遭遇したあの世にも不思議な出来事はまったく一夜のやうで、何か遠い前世の思ひ出みたいな気がするし、こんなたはけた事を綴るわたしは一たい気がちがっているのではないかと思ふのである。Byヒゲオヤヂの記録の最初

 

物語は理学士、邪我汰良介が屋敷に居たところを、何者かによって襲撃され、殺害されるシーンから始まる。襲撃者は彼の持つ、黒曜石のような、ある玉を狙っていた。かけつけた私立探偵のヒゲオヤヂは、知性を持つウサギのミイちゃんと共に事件の捜査を始めていく。

 

事件のカギを握る人物は邪我汰の旧友の科学者、敷島鵬翼だった。敷島鵬翼は動物を知性化させる研究の第一人者で、ミイちゃんもその実験の第一号だった。
敷島が偶然発見した物とは、ママンゴ星の隕石。ママンゴ星とは、太古の昔、地球から分離して宇宙の彼方に飛び去った星。地球と同質の大気を持ち、生物が繁殖するという謎の星である。そんなママンゴ星が500万年ぶりに地球に接近していた。

 

ママンゴ星から飛来した隕石は僅かな電気で莫大なエネルギーを生じる性質を秘めていた。そして、その石を狙って秘密結社が暗躍していた。
敷島に聞き込み調査をしていたその最中、ヒゲオヤヂは秘密結社の刺客から襲撃を受ける。刺客との格闘の末、ヒゲオヤヂは秘密結社のアジトに潜入し、秘密結社の野望を阻止するため、命がけの戦いに身を投じていくのだった。

 

「ママンゴ星は実に前世紀の星だッた!」By敷島鵬翼

 

秘密結社との死闘から生還したヒゲオヤジは、敷島が計画したママンゴ星探検計画に参加することになった。


敷島はママンゴ星の隕石を動力源にした宇宙ロケットを開発。そのロケットにはヒゲオヤヂと敷島の他にも、敷島の共同研究者である豚藻負児、知性を持ち植物から進化した少女たち、密航者の新聞記者ランプ達が乗り込んでいた。

 

そして……敷島一行を乗せたロケットは、流れ星よりも早くママンゴ星めがけて墜ちてゆく。不時着した敷島達が見たママンゴ星の風景は、シダ、トクサが生い茂って、絶滅した筈の恐竜が闊歩する有史以前の世界。まさにロストワールドさながらの世界だった。

 

だが、一行の中には秘密結社のスパイが潜り込んでいた! 敷島やヒゲオヤジに危機が迫る。彼らは危険なママンゴ星から生還できるのか? それは是非ともご自身で読んで知っていただきたい。

 

 

恐竜が登場する作品は数多く存在し、登場方法は地球の秘境で生き残っていたり、人間が過去の時代で恐竜に対面したりと、バリエーションも様々である。本作に登場する恐竜は地球に生息しているのではなく、地球から分離した遊星で生き残っていたという大胆な設定である。

登場する恐竜は、正式名称が作中で明かされていないが、ティラノサウルスのような肉食恐竜、ステゴサウルスのような草食恐竜、翼竜などが登場している。恐竜の他にもミイちゃんのような知性を持つ動物、植物から進化した人間と、後々のSFに登場する種族も登場している。

 

ストーリーを大きく分けると、地球を舞台にしたヒゲオヤジ達と秘密結社の死闘が描かれる地球編、ママンゴ星に到達した敷島一行の冒険を描いた宇宙編の二編からなっている。冒険が拡がっていく様子を読み進めるにつれて実感できる作品だ。


『ロストワールド』は手塚治虫が生涯5作のバリエーションを執筆して、4作が公開されており、本作がその1作目である。その変遷を追っていくと手塚治虫の作風や展開が変わっていくのを知ることができる。地球、ママンゴ星を舞台にした冒険譚でありつつ、ハッピーエンドでは終わらない結末も読後に強い印象を残す一作だ。


この漫画は手塚治虫が初期に発表した作品の一つで、少年時代に描いた作品だ。作品の構図やストーリーテリングはマンガの神様と言われた手塚治虫らしさを感じさせられる一作となっている。登場人物のヒゲオヤヂ、ランプなど、後に手塚治虫漫画でお馴染みとなるキャラクターもここで登場している。著者の手塚治虫についてはもはや説明不要とも言えるが、『鉄腕アトム』『火の鳥』『どろろ』『ブラック・ジャック』など数多くの作品を発表している漫画家だ。そんな手塚治虫が若かりし頃に描いた本作を読んでいただきたい。

 

 

 

作品情報

 

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書名:ロストワールド-私家版-
著者:手塚治虫
出版社:手塚プロダクション

出版年:2014年