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【ボカロ小説レビュー】というか今さらボカロ小説?という人が最初に読むべき記事

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ボカロ小説というジャンルがある。

ボーカロイドという音程と歌詞を入力するとその通りに歌うソフトによる楽曲を基にした小説群の呼称である。このボカロ小説の魅力を紹介するにあたり、第一回目の今回は、まず作品がどのように作成され、公開されているかを紹介したい。

 

小説の作者は誰?


一般的には、楽曲の作者を原作者、小説の執筆者を著者と称することば多い。楽曲を小説にする「ノベライズ」は、原作者が行う場合と、別人が担当する場合とがある。

たとえば、初のボーカロイド小説として今もシリーズの展開が続いている大作『悪ノ』シリーズは、楽曲の作者であるmothy氏が小説の執筆も行なっている。

一方、原作者本人による替え歌が多数発表されている『脳漿炸裂ガール』は原案と著者が異なる。原曲の作詞作曲者であるれるりり氏が原案、人気アニメ『TIGER & BUNNY』の脚本を手がけた吉田恵里香が著者となっている。

 

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イラストは誰が描く?


楽曲の公開時、動画につけるサムネイル画像やPVを作成している場合が多い。こうしたイラストは原作者本人が描く場合もあるが、絵師が描いている場合もある。

原作者が投稿した原曲に原作者本人が、もしくは原作者の意思を託された絵師がつけている画像は公式と称され、原曲発表後に独自の解釈に基づき描かれるファンアートとは区別される。

この「公式絵」は楽曲と共に公開され一定の知名度があるため、ノベライズされた際に表紙に使われることが多い。また、公式絵師の書き下ろしイラストを挿絵に利用していることも多い。

 

物語の主人公は誰?


ボカロ小説はボーカロイドの歌唱する楽曲を原作とする小説群であるため、必ずしも初音ミクなどのボーカロイドがキャラクターとして登場するわけではない。登場キャラクターがボーカロイドそのままの場合、作中の名前を楽曲や小説の世界観に合わせ改変する場合が多い。たとえば和風ファンタジーの『千本桜』では初音ミクを「初音未來」と改変している。

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ボーカロイドがそのままの名前で登場する場合であっても、初音ミクという音声ソフトとして登場することは稀であり、初音ミクという人間の少女として表現されることが多い。また、共通して「キャラ立ち」した作品が多く見受けられる。

 

作品をどこで公開するか


楽曲の公開はニコニコ動画が多いが、小説はどこに公開されることが多いか。初めて執筆されたボカロ小説である悪ノPによる楽曲『悪ノ娘』を例にとって説明しよう。

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まず、この楽曲がニコニコ動画に公開されたのは2008年4月。ボーカロイドを生み出したクリプトン社が提供するコンテンツ共有サイトであるピアプロに先行公開後、絵師を公募し、応募した壱加を絵師に据えて動画を作成し、ニコニコ動画へ投稿した。

物語には、ボーカロイドの鏡音リンを基にした女王を主人公とし、彼女の双子の弟で不遇の召使いとして鏡音レンを基としたキャラクターを使用している。話の内容は割愛するが、登場キャラクターが多く、また各キャラクターに焦点を当てた楽曲が悪ノP本人によって多く公開されている。主要なキャラクターたちがボーカロイドを基にしているため、スピンオフの楽曲ではそのモデルとなったボーカロイドの声を使用している。

同作をノベライズしたのはPHP研究所。元々は絵本化の予定だったが頓挫し、小説化することになったという。元々原曲の設定資料が多く、ほとんどシナリオのようだったため、そのまま悪ノP本人の執筆が決まった。当時悪ノPに小説執筆の経験はなかったが、約一カ月半で小説化を果たした。同作はその後シリーズとなり、さらに舞台化漫画化ギャグ漫画化ファンブック販売などと展開している。

現在も続刊中の同作は販売前に重版がかかる大人気作となっている。後にボカロ小説が多数出版される大きな要因となった。

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さて、ボカロ小説全体の公開方法に話を戻す。最初期のボカロ小説は、人気楽曲に出版社が声をかけ、楽曲の作者本人によってノベライズされていた。それが変わってきたのは2013〜2014年頃。ボカロ小説は中高生の女子を中心として広まっていき、売れる本として認識されていった。本が売れない今、元々人気の楽曲を原作とする小説は、リスクもあるがそれを上回るリターンがあり、大手出版社がこぞってボカロ小説を出版し始めた。その過程で楽曲の作者本人による執筆ではなく出版社側で用意した作家によるノベライズも増えた。

 

ボカロ小説ブーム以後の変化


ブームの後、楽曲につくコメントや、楽曲自体の方向性にも変化が現れた。小説化希望というコメントが増え始め、楽曲も小説化を意識したものに変化してきている。

ボーカロイドには歌声とキャラクタービジュアルのほか、歌声および外見のイメージから解釈される性格がある。たとえば、初音ミクは少し天然でネギが好き、巡音ルカはお姉様キャラでクールビューティ、鏡音レンは童貞でロードローラー好きなどである。これらは全て公式設定ではないものの、多くの楽曲に利用されたためボーカロイド好きの中である程度共通の認識として共有されている。これを利用しギャグ漫画化した『はちゅねみくの日常 ろいぱら!』などもある。

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元々のボーカロイド楽曲は悪ノシリーズのようにボーカロイドのキャラクターたちに着想を得た楽曲が多かったが、最近は『カゲロウデイズ』などのように作者が独自に作成したキャラクターのストーリーが増えており、楽曲やノベライズを見てもボーカロイドの面影が見えないものも増えた。こうして、ボカロ小説は多様化し、「ボカロ小説」という一単語だけでは語れないものを内包している。

 

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終わりに

 

なんとなくボカロ小説のイメージは掴めただろうか。次回からは毎回作品1つを取り上げて紹介していきたいと思う。まずは上で触れた『カゲロウデイズ』から紹介する予定なので、興味を持った方はぜひ、楽曲を聴きながら本を手にとってボーカロイドの世界に浸ってほしい。