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【恐竜SFレビュー#11】ダはダイナソーのダ

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恐竜SF紹介コラムの第11号はレイ・ブラッドベリの小説、『恐竜物語』を紹介する。
恐竜をテーマにした短編4編、詩2編で構成されている短編集である。

 

掘りだされ復元された骨格に思わず声を上げ、手をとりあい驚異をわかちあい、大喜びの少年は遠い日の喜びを追憶する老人を引っぱってゆく。

『恐竜のほかに、大きくなったら何になりたい?』

少年のベンジャミンは恐竜が大好きで、将来の夢を聞かれると恐竜と即答するほどの、無類の恐竜好きである。そんなベンジャミンが、祖父のスポールディング氏と共に恐竜の化石が所蔵されている博物館へ向かった。恐竜に出会い、ますます恐竜への憧れを募らせるベンジャミンは、日曜日の礼拝で牧師に、将来願い通りのものになれると言われた。
その晩からベンジャミンの家では奇妙なことが起き始める。

 

『恐竜物語』に収録されている1作目は、恐竜に憧れる少年と祖父の交流を描いた作品だ。恐竜への想いが少年の視点を通して語られており、中盤以降は存在するはずのないものが出現してくる幻想的な雰囲気の短編小説である。

 

タイムサファリ株式会社 サファリをお好きな過去の時代へ

『いかずちの音』

舞台は2055年の未来。この時代にはタイムトラベルが確立し、過去の時代へ旅行することが可能となっていた。金持ちのエッケルズはタイムトラベルを扱うタイムサファリ社に大金を支払い、ティラノサウルス・レックスを仕留めるため、ツアーガイド達と共に六千万二千五十五年前の時代へと飛び立つ。


一行はお目当てのティラノサウルス・レックスに遭遇するが、エッケルズは怖気づいてしまい、ティラノサウルスは別のツアー客とツアーガイドに仕留められた。狩りの様子に慌てたエッケルズは決められた場所以外の領域に足を踏み入れてしまう。そこでのある過ちが未来を変えてしまうことに繋がってしまう。

 

過去のタイムトラベルでの小さな出来事が未来そのものを変えてしまうテーマの作品で、『バタフライ・エフェクト』にも通ずる設定のある短編小説である。本作は2005年に『サウンド・オブ・サンダー』として映画化されている。

 

何かがこの灯台を目指して泳いでくる

『霧笛』

 

灯台を管理する灯台守の「ぼく」と先輩のマクダン。ある日、いつものように灯台守の仕事につき、霧笛を鳴らしていたところ、海面から大きなものが現れた。それは絶滅したはずの恐竜の生き残りで、灯台を同族だと思って海から出現したのだった。

 

恐竜の生き残りが灯台を同族、霧笛を鳴き声と間違えて海から出現する幻想的な作品で、最後の生き残りとなった恐竜の哀愁が感じさせられる一作である。萩尾望都がレイ・ブラッドベリの短編を漫画化した『ウは宇宙船のウ』にも本作の漫画版は収録されている。

 

おれのかわいい分身たち、とターウィリンジャーは思った。おれのちっぽけな子どもたち。液状ラテックスと、スポンジゴムと、球状ソケットのついたスチール関節の産物。みんな夜の夢の中から生まれ、粘土の型取りののち、ひねり、溶接し、リベットで留め、手ずからいのちを吹きこんだものだ。

『ティラノサウルス・レックス』

恐竜映画に携わるターウィリジャーは、無茶ぶりをするプロデューサー、ジョー・クレランスへの当てつけに、彼を模した恐竜の映画を制作。クレランスは当然激怒するが、事態は思わぬ方向に転がっていく。

 

恐竜映画のミニチュア製作を担当する主人公といけ好かないプロデューサーの応酬がテーマの作品。この作品に出てくる主人公は、特撮映画を数多く撮ってきたレイ・ハリーハウゼンがモデルだと推察されており、恐竜への想いをミニチュアで再現する主人公の熱意も感じられる。

 

上記4作の他にも詩の『見よ、気のいい、気まぐれ恐竜たちを』は踊る恐竜の姿を、『もしもわたしが、恐竜は死んでいないと言ったとしたら』は現代に恐竜が現れたら?をテーマにしている。

 

収録作が作品毎に挿絵を担当するイラストレーターが異なり、『恐竜のほかに、大きくなったら何になりたい?』はデヴィッド・ウィーズナ、『いかずちの音』はウィリアム・スタウト、『霧笛』はジム・ステランコ、『ティラノサウルス・レックス』はメビウスと名だたる面々が担当しており、各挿絵もブラッドベリの叙述的な文章とマッチしている

 

『恐竜物語』は恐竜に憧れる少年、恐竜を狩る話、恐竜の生き残り、恐竜映画に携わる男と、各作品ともテーマは違えど、かつて地上を闊歩した恐竜への愛が籠められており、恐竜に憧れを抱いた人々に向けた贈り物とも言える短編集である。

 

著者のレイ・ブラッドベリは『華氏451度』『火星年代記』『太陽の黄金の林檎』『たんぽぽのお酒』など、幻想的で抒情的な作品を多く書いており、今年2020年はブラッドベリ生誕百年の年でもある。

 

 

作品情報

 

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作品名:恐竜物語

作者:レイ・ブラッドベリ

出版年:1984年

出版社:新潮社