sfgeneration’s blog

若手向けのSF情報同人誌『SFG』を発行しています。webではSFに関する話題やイベント情報などを発信していきます。

ブログタイトル

MENU

【これから読む人向け】2年7か月ぶり待望の新刊『アリスと蔵六』8巻までを総ざらい―今井哲也『アリスと蔵六』

f:id:sfgeneration:20190502234801p:plain

 

 

2019年12月13日、ついに今井哲也さんの『アリスと蔵六』最新刊の第9巻が発売されます。2017年以来、実に2年7か月ぶり(帯によると)の新作ですが、待ち望んでいた人も多かったはず。新刊、出ると信じてました!

 

『アリスと蔵六』をずっと読んできた人と、これから読む人に向けて、内容総復習です。

 

『アリスと蔵六』のはじまり


舞台は現代の日本ですが、この世界にはごく一部の人だけが持つ能力があります。その能力は「アリスの夢」と呼ばれていました。

 

能力が発動する時には鏡の門(ルッキングラス)が現れる、「鏡の門」が現れるのと同時に想像したものが具現化する、具現化させられるものは一人につき一種類のみ。「アリスの夢」についてはそれ以上のことが分かっていません。そんな謎の能力を解き明かす鍵が、研究所に突然現れた「赤の女王」の存在です。

 

「アリスの夢」で具現化できるものには制約がありますが、彼女は自身の想像力が及ぶ限りなんでも出すことができ、物理法則を書き換えることも可能です。彼女は研究所の地下の「ワンダーランド」と呼ばれる不思議な空間におり、外に出ようとしません。研究所では、特別な研究対象として扱われていました。

 

「紗名」という名前を得て、自我を持った紗名ですが、彼女は研究所に不信を募らせ脱走します。逃げ出した紗名はその先で、曲がったことが大嫌いという頑固爺・樫村蔵六と出会うのでした。 

第1部 人間になるための物語(1巻~2巻)

第1部は、紗名と研究所の物語です。研究所からの追っ手を迎え撃ち、新宿のど真ん中で能力バトルを繰り広げる紗名たちですが、そんな彼女たちを「曲がったことが嫌い」な蔵六が一喝、事態を収束させます。


一度は姿を消した紗名でしたが、行き場のない紗名は再び蔵六の前に現れました。そして、蔵六と孫娘の早苗が住んでいる家に居候することになります。

 

紗名の不思議な能力が明かされ、波乱万丈の物語が幕を開けます。やっていい事といけない事の区別もつかず、分からないことだらけ。それでも、蔵六はそんな紗名を肯定します。


分からないことがあっても良い。子供は間違えながら少しずつ正しい道を理解し、大人になっていくものです。一度は自分の存在を否定してしまいましたが、蔵六のおかげで「ちゃんとした人間になりたい」と感じた紗名。前作『ぼくらのよあけ』でもそうでしたが、子供の物語を描くためには魅力的な大人が必要です。この描き方がとても上手な方だと思います。

 

そんな彼女の決意とともに1部は幕引きとなりました。

第2部 友達を手に入れる物語(3巻~5巻)

研究所の一件が片付いてからおよそ半年、紗名は樫村家の一員として、蔵六の家業(花屋)を手伝っていました。諸々の事情から学校には行けなかったのですが、楽しい日々を送っていました。


同じころ、小学生の敷島羽鳥は「アリスの夢」に目覚めていました。その能力は、周囲の人間を自分の思う通りに操れるというもの。自分の能力に恐ろしさを感じた羽鳥は、唯一能力を受けない美浦歩と共に、家を出ることに決めます。物語は紗名と羽鳥の二つの視点から語られ、やがて一つの物語に収束していきます。

 

羽鳥の能力は親の不仲から発現したもので、その引き金を引いたのは自分だと感じていました。羽鳥の感じる自己否定感は、特に感受性の高い子供は、もしかしたら感じたことのある気持ちかもしれません。能力を使うことで表面的には大切にされているように振る舞っていても、本当の心は遠く離れていきます。

 

そんな羽鳥を救ったのは、他の誰でもなく紗名でした。第1部では蔵六が紗名を肯定したように、第2部では自分の存在を否定する羽鳥を、紗名が諭します。自分が貰ったものを、今度は他人へと分け与えられるようになったことは、紗名の成長の証でしょう。『アリスと蔵六』は、紗名が大人になった後、子供の頃を思い出すという形式で進んでいます。羽鳥や歩との出会いは、紗名が大人になるための一歩となったのでしょう。

第3部 もう一つの自分と出会う物語(6巻~7巻)

学校に通えるようになった紗名は、羽鳥や歩と同じ小学校へ入学し、平穏な日々を送っていました。一方、「アリスの夢」の存在が一般に公開されたことで、世界中で発現者が増加し、それに伴う混乱も起こりつつありました。


一方、研究所跡地の地下に広がっていた「ワンダーランド」に、ある変化が起こっていました。紗名と羽鳥、歩の三人は、ワンダーランドを調査するため現場への同行を求められます。そして紗名は、ワンダーランドの最深部で赤の王と出会うのでした。

 

赤の王が登場し、物語は再び大きく動き始めます。赤の王は紗名とよく似た風貌ですが、鏡の門を開かせるためなら、人を傷つけることも厭いません。それはある意味で、外の世界に出てきた直後の紗名や、原宿で能力を使った時の羽鳥とも重なるものがあります。周囲の手助けもあってその誤ちに気がついた二人が、今度は赤の王を止めるために奮闘します。第1部から第2部、そして第3部へと進むにつれ、大きな経験を繰り返しながら、少しずつ成長していくのでした。

第4部 家族の秘密に触れる物語(8巻~)

そして、8巻から始まった第4部では、いよいよ樫村蔵六の秘密に迫ります。いかにもワケありな蔵六の過去から始まり、紗名の家出、フランスから来た天才少女との出会い、歳を取らなかったという蔵六の妻・クロエなど、謎多い展開が続きます。この物語のその先は最新刊を読むべし!