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【恐竜SFレビュー #4】博物館は知識の宝箱!

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今回は岡崎二郎の漫画『国立博物館物語』を紹介する。

 

2019年8月現在、上野にある国立科学博物館では特別展、恐竜博2019が開催されている。恐竜博2019ではデイノケイルスやむかわ竜の化石が展示されているが、今回の『国立博物館物語』は国立科学博物館をモチーフにした作品である。

dino2019.jp

 

 

東京は上野駅に降り立ち、いくつもの美術館を抜けて歩いていくと一番はじっこにその古ぼけた建物があった。

 

上野にある新東京博物館(国立科学博物館がモデル)。古生物学を中心とした博物館だが、理事長が代わり博物館に新しい博物館を目指して敷地内にアミューズメントパークを建設しており、そこでの目玉となる一大事業が博物館内で行われていた。

 

その事業とは、超弩級ニューロ・チップAIのスーパーE。

 

スーパーEは与えられた化石情報を元にコンピューター内で白亜紀の環境、すなわち恐竜のいた時代を再現できる。現実世界の人間は特殊なヘルメットをかぶり、視覚、聴覚神経系からスーパーEの情報をパルスとして受け取り、スーパーEが創り出した仮想空間にダイブする。しかし、仮想空間に入ることができたのはただ一人、新東京博物館の研究員・森高弥生だけだった。

 

仮想世界で恐竜に出会える。これをアミューズメントパークの新しい目玉とするべく、博物館内ではスーパーEの研究が進められており、弥生はモニターとして仮想空間にダイブする日々を送っていた。

 

最初は乗り気ではなかった弥生だったが、理事長の説得や仮想空間内の恐竜の生態を見て、少しずつやる気を出していく。

 

本書は全3巻(69話)。基本は一話完結の短編型式として、弥生がスーパーE内で恐竜に出会ったり、彼女が博物館研究員として化石を調べたりするほか、化石や恐竜以外の博物学や普段目にする動植物の生態も描かれており、いわゆる学習漫画を彷彿とさせる作風となっている。

 

スーパーEの仮想空間で再現された白亜紀の世界ではサウロルニトイデス(知能が高かったとされている小型恐竜)、アリオラムス(モンゴルに生息していたティラノサウルス科の肉食恐竜)などの実在した恐竜から仮想空間で誕生したオリジナルの恐竜まで、様々な恐竜が登場している。さらに恐竜だけでなく、弥生が出会った少年達の思いつきからケンタウロスも登場している。

 

オリジナルの恐竜は弥生のトラウマを引き起こしてしまう恐ろしい容姿だが意外な生態が明かされており、ケンタウロスも単にファンタジーの生物ではなく6本足の生物が誕生したらどうなるか、という思考実験の産物として登場している。

 

基本は一話完結のスタイルだが、1巻に収録されている第12話『ペア誕生』~第16話『精神分析医』は連続したエピソードである。弥生と同じくスーパーEの仮想空間にダイブして動き回ることが出来る少女・高岡晴美が登場。ダイブした弥生と晴美が現実の世界に戻れなくなり、スーパーEの中に閉じ込められてしまうアクシデントが描かれている。

 

その原因は晴美が心に負った傷にあり、それを察知したスーパーEが2人を閉じ込めていたのだった。スーパーE自身も一介のコンピュータではなく、自我のある存在と仄めかされている。

 

「変化こそ生命の本質なのだ。」By恐竜人類のジャン

 

本書ではスーパーEの仮想空間で再現された白亜紀の恐竜が登場するが、3巻に収録されている第10話『恐竜人類 前篇』~第12話『恐竜人類 後編』では、「もし恐竜が絶滅していなかったら?」というテーマで、6500万年前に隕石が地球に衝突せず恐竜人類が存在する世界がスーパーE内の仮想空間として登場している。

 

隕石が衝突しなかった地球では恐竜が胎生に移行して進化していく中、卵生を保ち続けた小型恐竜のリトルDが1億年の時間をかけて脳を進化させた。やがて直立歩行になり武器を作る技術を手にしたことで、恐竜人類が誕生する。

 

恐竜人類は文明を発展させ、ついに産業革命が始まった。


恐竜人類は先祖からの性質で冬眠が必要不可欠だったが、恐竜人類の学者・ジャンは都市に巨大ボイラーを築いて温度を保つセントラル・ヒーティング構想を持っていた。やがてセントラル・ヒーティングは実現し、恐竜人類はより繁栄を極めていくが、社会ではある異変が生じていた。

 

その異変はここでは割愛するが、『恐竜人類』編では恐竜が進化したというif世界で、環境変化が生物に及ぼす影響を書いており、絵空事ではなく現実にも懸念される問題として取り上げられている。

 

人類の未来はどうなる?

 

最終章である第3巻の第22話『人類の行方 前篇』~第24話『人類の行方 後編』では弥生と晴美のモニター体験が功を奏し、ヘルメットの改良も進み、研究もひとまず終了となる。しかし、スーパーEの研究者・西澤博士の発案で地球生命圏のその後が仮想空間で再現され、弥生と晴美は現実ではないものの、遠未来の世界を目の当たりにする。この章は人類の行く末がテーマとなっており、人類はどうなるのか、人類以外に文明を継ぐのは誰か、そして、心とは何か、という問題について一つの答えが明示されている。

 

仮想空間での恐竜の姿や博物館に展示されている化石、普段目にする動植物の生態を通して、知識を得ることや何かを発見することの魅力が伝わってくる作品である。博物館に収集されている化石は過去のものではない。かつて存在した生命の生きた証を我々、人類に身をもって教えてくれているのだと改めて認識させられる。読めば博物館に行ってみたくなる漫画である。

 

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著者の岡崎二郎は本書以外にもSF短編漫画『アフター0』『大平面の小さな罪』『ファミリーペットSUNちゃん!』などの漫画を描いており、どの作品もセンス・オブ・ワンダーを感じられる作品である。

 

 

書誌情報

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書名:国立博物館物語

作者:岡崎二郎

出版社:小学館

出版月:1997年9月