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【恐竜SFレビュー #3】恐竜は何故、絶滅したのか。その謎を解明すべく我々は白亜紀へ向かった。

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恐竜SF紹介コラムの第3号はロバート・J・ソウヤー『さよならダイノサウルス』を紹介する。


かつて繁栄した恐竜は何故、絶滅したのか。その謎を解明するために白亜紀へ旅立った男が目にしたものは? 恐竜絶滅の謎に迫る冒険SFである。

 

「待ってよう」とトロエドンは言った

 

2005年に発見されたタイムトラベル理論。過去への逆行≪スロウ・バック≫を実現するファン効果によるタイムマシン、国王陛下のカナダ製タイムマシンであるチャールズ・ヘイゼリアス・スターンバーグ号(通称:スターンバーガー)が2013年に開発され、過去への冒険が始まろうとしていた。

 

スターンバーグ号に乗り込むのは主人公ブランドン・サッカレーと彼の親友、クリックス・マイル。彼らが向かう先は6500万年前の白亜紀。ブランドンとクリックスは古生物学者で恐竜絶滅を解明するべく過去へ飛び立った。

 

白亜紀に到着したスターンバーガー。2人が初めて遭遇した生きた恐竜はティラノサウルスだったが、そのティラノサウルスは奇妙だった。ティラノサウルスが群れで、しかも列をなして歩いていた。次に遭遇したトロエドン(トロオドン)はティラノサウルス以上に衝撃的であった。

 

「待ってよう」

 

なんとトロエドンが、恐竜が、言葉を喋ってブランドンに話しかけてきた。厳密にはトロエドンの身体に侵入したゼリー状の生物がトロエドンを介して会話していたのが、ブランドンとクリックスがゼリー状の生物と対話していくと、更に衝撃的な事実を知る。

 

ゼリー状の生物は太陽系第四惑星、すなわち火星から来た存在。火星人だったのだ!

 

「それはひとつの時代の終わりだった。」Byブランドン・サッカレー

 

ゼリー状の生命体である火星人。ヘットと命名された火星人とブランドン、クリックスは互いに対話する。ヘットは未来での火星の現状をブランドンに尋ね、ブランドン達はヘット達が築いた高度な文明、テクノロジーを知ることで交流を行っていた。

 

しかし、両者のファースト・コンタクトは亀裂が生じ、恐竜絶滅のきっかけとなった瞬間が訪れてしまう。

 

後書きでも書かれているように本書で解明される謎はいくつかある。

 

1.恐竜はなぜ絶滅したのか。
2.恐竜はなぜあれほど巨大化できたのか。
3.白亜紀と第三紀の境界になぜイリジウムの豊富な地層があるのか。
4.恐竜の肉は旨いのか。
5.火星はなぜ死の星になったのか。
6.時間旅行はなぜ可能でなければならないのか。

 

恐竜絶滅の謎がテーマである本書では当然、恐竜が絶滅した理由をSF的な解釈で書いているが、本筋に関わるネタバレのため、是非とも本編を読んでいただくことをお勧めする。

 

恐竜絶滅の原因は現在でも諸説あり、確定していない。登場人物のブランドンは火山噴火説、クリックスは彗星衝突説を支持しており、2人はタイムトラベル前にも議論していた。

 

絶滅の原因として隕石が地球に衝突したことが主に取り上げられることがあり、白亜紀-第三紀の境界、K-Pg境界での地層でイリジウムが多く含有されていることがその証拠として取り上げられるが、その理由についても書かれている。

 

ゼリー状の生命体・ヘットは他の生物の身体に侵入して操る性質を持ち、火星で高度な文明を築いてきた存在だが、そんな生命体が現代ではどうなったのか、その行方についても理由付けがされている。あえて言うなれば、ヘットはDNA、RNA、タンパク質がキーになる生命体である。

 

前半では恐竜との接触、そしてヘット達とのファースト・コンタクトが描かれ、後半ではスリリングな展開でハラハラさせられながらも、恐竜絶滅の瞬間に立ち会ってしまったブランドンの心情が伝わり、邦題の『さよならダイノサウルス』、原題の『END OF AN ERA』の意味も終盤で理解することができる。人の決断が歴史を作ってきたと言うが、ブランドンの決断が地球史そのものに影響を及ぼしていると感じさせられる結末となっている。

 

恐竜とSFを巧みに融合させた傑作

 

恐竜絶滅がテーマではあるが、全体に重々しいかと言えばそうではない。本書内でもユーモラスなセリフや軽快なやり取りも書かれており、飽きさせない冒険活劇となっている。

 

登場する恐竜もティラノサウルスを始め、トロエドン(トロオドン)パケファロサウルスオルニトミムス翼竜トリケラトプスなど白亜紀に生息していた恐竜の姿がリアルに書かれている。終盤では恐竜総進撃と言わんばかりの展開があり、ワクワクさせてくれる内容である。なお、登場する恐竜の中にはブロントサウルスもいるが、ブロントサウルスはジュラ紀の恐竜のため、『さよならダイノサウルス』の世界では白亜紀でも生息していたと勝手に解釈した。

 

恐竜のいる白亜紀に行くために必要なタイムマシン・スターンバーガーもメインガジェットとして登場するが、具体的なタイムトラベルの方法は明かされていない。スターンバーガーはヘリコプターで1kmの高さに吊り上げられ、そこから落下して過去へタイムトラベルするユニークな設定だが、タイムトラベルと同時に本書ではパラレルワールドについての存在も明示されている。

 

恐竜、タイムトラベル、宇宙人とのファースト・コンタクト、パラレルワールドなどの様々なSFのテーマを盛り込み、謎を読み解きながら楽しめて、恐竜が繁栄した時代への憧れを感じさせる作品である。

 

著者のロバート・J・ソウヤーはカナダのSF作家で、本書の他にも知性化した恐竜が存在する世界を舞台にした『キンタグリオ三部作』(邦訳作品:『占星師アフサンの遠見鏡』)やネアンデルタール人が絶滅しなかった世界を書いた『ネアンデルタール・パララックス三部作』なども書いている。

 

書誌情報

書名:さよならダイノサウルス

作者:ロバート・J・ソウヤー

出版社:早川書房

出版月:1994年