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若手向けのSF情報同人誌『SFG』を発行しています。webではSFに関する話題やイベント情報などを発信していきます。

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【恐竜SFレビュー】これが失われた世界だ!南米の奥地に潜む古代生物を見た!

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恐竜――三畳紀に現れ、白亜期末に姿を消した古代の生物である。かつて地球を我が物顔で闊歩した恐竜は今では化石や足跡でしか見ることができないが、サイエンス・フィクションの中では今もその姿を見ることができる。恐竜をテーマにしたSFには"恐竜がもし生きていたら?"、"恐竜のいる時代に行けたら?"など様々なシチュエーションで、小説、マンガ、映画と多くのジャンルがある。

 本コラムは毎月、恐竜SFを一作品ずつ紹介していく。フィクションの中で生き続ける恐竜の姿を知るきっかけになってほしい。

 

コラムの第1号はコナン・ドイル『失われた世界』を紹介する。絶滅してしまった恐竜がもしも奥地で生息していたら?そんな秘境、"失われた世界"を求めて旅する男達の冒険活劇である。

オトコを見せてよマローン君!


『失われた世界』の物語は、新聞記者エドワード・マローンが想いを寄せる女性グラディスの為にも、冒険で功名を上げようと理想を燃やす場面から始まる。マローンは冒険を求め、新聞社の上司に掛け合い、チャレンジャー教授を紹介される。


チャレンジャー教授は、南米奥地の失われた世界には未だに有史以前の生物が生息していることを学会で報告するが、彼の発表に学会が紛糾。チャレンジャー教授は失われた世界への探検旅行を提案し、マローンはチャレンジャー教授の探検旅行に同行することになる。探検旅行のメンバーにはチャレンジャー教授に懐疑的なサマリー教授、世界的に高名な探検家ジョン・ロクストンも加わり、一行は南米へ向かった。

 

「もはや後退はない、うしろを振り向かず、つねに輝かしき目標を目指すんだ」(Byチャレンジャー教授)


チャレンジャー教授一行は南米にたどり着き、蒸気帆船エスメラルダ号に乗ってアマゾン流域の川をさかのぼっていく。「失われた世界」はアメリカ人、メイプル・ホワイトが発見したとされる場所で、彼が遺したスケッチブックが手掛かりとなっている。船を降り、ジャングルを突き進んでいく一行がたどり着いたのはヤシの生えた平原と赤土の断崖のある台地、そこが失われた世界だった

台地に昇る為に台地に隣接する岩山へ昇って、そこから丸太橋で台地へ突入していくが、そこで一行に困難が訪れる。ロクストンに恨みを持つ男によって丸太橋が切り落とされてしまった。


退路を断たれた一行は失われた世界へと進んでいく。失われた世界で、探検隊は絶滅したはずの植物や翼竜、恐竜に次々と遭遇する。そんな中、彼らのキャンプを獰猛な猿人が襲撃し、チャレンジャー教授達は連れ去られてしまう

マローンとロクストンはチャレンジャー教授達を救出するために猿人の村へ向かい、チャレンジャー教授達を救出し、猿人に支配され虐げられていたインディアンを解放し、そのインディアンと協力し、猿人の村を滅ぼし、勝利する。


一行はインディアンから教えてもらった脱出口を頼りに、失われた世界を脱出して一行は文明社会へと帰還する。ロンドンに凱旋したチャレンジャー教授達は成果報告会を学会で発表するが、なおも懐疑的な人々は彼らの業績を疑っている。しかし、ある成果物を披露するのだった。

 

失われた世界から持ち帰った成果物とは何か?果たしてマローンの恋が実ったのか?それらは終盤にて明かされるが、是非ともご自身で読んで知っていただきたい。

 

冒険の、危険で魅力的な香りに満ち満ちた一作

 

『失われた世界』は1912年に発表された作品で、衛星写真やGPSは存在していなかった時代。科学技術が進歩しつつあり、探検によって地球各地の謎が解明されていった時代でもあるが、人類未踏の地には絶滅したはずの恐竜が生き残っているかもしれない。そういった時代を感じさせる冒険小説である。


失われた世界では登場する古代生物はチャレンジャー教授一行が初めて遭遇した翼竜を始めとして、アロサウルスプレシオサウルスステゴサウルスイグアノドンといった恐竜から巨鳥フォロラクス、巨大テンジクネズミのトクソドンが登場している。

後半は猿人との対決に重きを置かれており、恐竜達の出番はやや少なくなっているが、恐竜という人類が共に生きることの出来なかった種族に一行が遭遇する描写にはセンス・オブ・ワンダーを感じさせる内容となっており、恐竜が生存する作品の先駆けとしても色褪せない作品となっている。

 

物語はマローンの視点で一貫して描写されており、マローンの夢や希望、失われた世界での体験などが手記方式で書かれているため、より臨場感を感じさせる。
登場人物も頑固で偏屈なチャレンジャー教授を初めとして、一癖も二癖もある人物が登場するが、困難を前に探検隊が一致団結し立ち向かっていく展開も熱く、知恵と勇気で解決し前へ進んでいくのは王道的である。

 

本書はシャーロック・ホームズの作者である推理小説家コナン・ドイルによるSF小説である。コナン・ドイルは古生物にも関心を持っており、本書執筆時には古生物の足跡である化石を専門家に依頼した背景もあり、それらへの関心から”恐竜などの古生物が現存していたら?”というテーマの『失われた世界』が書かれたとも考えられる。


失われた世界に登場したチャレンジャー教授は他の著作にも登場している。地球を毒性のエーテルが通過し人類存亡の危機が訪れる『毒ガス帯』『霧の国』『地球の悲鳴』『分解機』はチャレンジャー教授シリーズとも言える作品群である。

 

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作品データ


書名:失われた世界(THE LOST WORLD)
著者:アーサー・コナン・ドイル
出版社:東京創元社