あっ、この人ヤバい人だ(褒め言葉)
草野原々といえば、『最後にして最初のアイドル』(早川書房)でデビューし、一躍話題になったのは記憶に新しい。2018年に発行された短編集『最後にして最初のアイドル』には3作の短編が収録されている。
表題作はアイドルを目指す女の子の百合的な物語(最後は宇宙に行く)
2作目『エヴォリューションがーるず』はソシャゲが好きな女の子の百合的な物語(最後は宇宙に行く)
3作目『暗黒声優』は最強の声優を目指す女の子の百合的な物語(序盤から宇宙に行く)
あっ、この人ヤバい人だ。
とまあ本当に彗星のごとく現れて、たった一作で有名になった。他に似た傾向の作品が少ないこともあり、早々と立ち位置を確保した感はあるのだが、作風の幅という意味では不安があった(これは、本人も問題意識として持っていたようだ)。そんな草野原々が長編を書く(しかも2冊同時刊行)ということで、一体どうなるのやらという気持ちだった。
だが、その心配は杞憂に終わる。草野原々という強烈な個性を残しつつ、長編としてもしっかりと成立させてくれたのが本作『これは学園ラブコメです。』だ。
メタフィクションサバイバル『これは学園ラブコメです。』
第一長編の一つである『これ学』は、メタフィクションを扱った作品であった。ラブコメ世界の主人公である高城圭が、物語を秩序立てる者である言及塔まどかと協力して、SFやファンタジー、そして「なんでもあり」の侵入から世界を守る。
スラップスティックな展開が続くので、するすると読めてしまう作品なのだが、物語で語られる「そもそもフィクションとは何か」という思索が大変面白い。物語の序盤で、フィクションは作者によって構築されるのではなく、作者によって「言及される」ことで成立すると語られる。この語りは、後半に語られる現実とフィクションの関係性とも関わり、フィクションにおける作者の立ち位置が示される。
物語を成立させているものは何か
フィクションが成り立つためのお約束を、私たちは疑わない。ラブコメ世界において、幼馴染が朝起こしに来ることや、曲がり角で転校生とぶつかることに違和感を覚える人は少ないだろう。こうしたお約束は、作者の目線から見ればフィクションの構造を作るために必要なものだと捉えることもできる。
しかし、これをフィクショナルキャラクターから見れば、自分がフィクションによって規定されているのと同義でもある。フィクションに隷属し、ストーリーを進めるために存在しているフィクショナルキャラクターは実存しているのか、あるいは虚構なのか。本作はフィクショナルキャラクターがその存在をかけて戦うサバイバルとも言えるだろう。
もう一つの第一長編は分かりやすくサバイバルもので、前作収録の『エヴォリューションがーるず』も進化をかけたサバイバルだった。草野原々はサバイバルものが好きなのでしょうか?
ちなみに
本作はラノベレーベルということで、「主人公は人間の男の子で」という注文があったそうな。最初は女の子が転生してムカデになる話を考えていたそうだが、無事ボツになったらしい。
作品データ
書名:これは学園ラブコメです。
著者:草野原々
出版社:小学館 ガガガ文庫
出版月:2019年4月